その一座はちりぢりばらばらになってしまった。立派な屋敷で暮していたある老婦人が、ジャンを可愛い子と思ったので、一日、その身の代金を払って、自分の手もとに引き取った。なかなか利発な子だったので学校にあげた。済むとまた上の学校に通わせた。この老婦人には子供がなかったので、持っていた財産はそッくり彼のものになった。そして、ジャンのほうでも、生みの父母を探していたのだったが、何せ、覚えているのは、「お父ッさんのピエール」と「おッ母さんのジャンヌ」という二つの名前ばかりである。探そうにも、探しだす手だてがなかったのである。彼はいま妻を迎えようとしていた。そして自分の妻になる女を両親に引き合わせた。気だての優しい、容色もなかなかいい女だった。
第 2 章
老人夫婦が代って自分たちの永い永い間の心痛と苦労のかずかずを語りおわると、親子はもう一度抱き合った。
その晩は、いつまでもいつまでも起きていた、誰も寝ようとしなかった。
自分たちの手からあんなに永いあいだ逃げていた幸福、その幸福をようやく捕えたのである。
この幸福が、眠っている間に、また自分たちを見捨ててどこかへ行ってしまいはしないだろうか。
彼等はそれが心配だったのである。
しかし、彼等はしつッこい不幸に苦しむだけ苦しんで来たのだろう、死ぬまで幸福な日を送ることが出来た――。