その一座のひとびとに別れの手をふりながら、広間からゆっくりと出ていった。未婚の叔母たちは仰天して棒立ちになってしまった。花嫁はうなだれ、目には涙がうかんできた。
第 2 章
男爵はその見知らぬ人について、城の大きな中庭に出ていったが、そこには黒い軍馬が地をかきたてながら、待ちくたびれて鼻を鳴らしていた。
城門の深いアーチ型の通路が篝火でおぼろげに照らされているところまできたとき、その見知らぬ人は足をとめて、うつろな声で男爵に話しかけた。
その声は円屋根にひびいて、いっそう陰気に聞えた。
「わたくしたちだけになりましたから」と彼は言った。
「わたくしが去ってゆくわけを申しあげましょう。わたくしにはどうしても果さなければならない約束があるのです」「それならば」と男爵は言った。
「だれかあなたのかわりにやるわけにはゆきませんか」「代理はまったく許されないのです。自分で行かなければなりません。わたくしはヴルツブルク寺院へ行かなければならないのです」「そうか」と言って、男爵は勇気をふるいおこした。
「明日まで待ちなさい。明日花嫁をつれてそこへ行きなさい」「いや、いや」とその見知らぬ人は十倍のいかめしさをこめて答えた。
「わたくしの約束は花嫁との約束ではなく、蛆虫となんです。蛆がわたくしを待っているのです。わたくしは死人です。盗賊どもに殺されて、死体はヴルツブルクに横たわっているのです。真夜中にわたくしは埋められることになっています。墓がわたくしを待っているのです。わたくしは自分の約束を果さなければなりません」 彼は黒馬に飛び乗ると、跳ね橋をまっしぐらに渡っていった。
その馬蹄のひびきは、夜嵐のひゅうひゅう鳴る音にかきけされてしまった。
男爵はすっかり胆をつぶして広間にもどり、このなりゆきを物語った。
婦人が二人たちどころに気をうしない、ほかの人たちは幽霊と祝宴を共にしたことを思って気味が悪くなった。
あるものの意見では、これがドイツの伝説で有名な幽霊猟師なのかもしれないということだった。
またあるものは山の妖鬼や、森の悪魔や、そのほかの超自然的な魔ものの話をして、ドイツの善良なひとびとは、遠い昔から、そういうものにひどく悩まされてきたと言った。
貧しい親類の一人が、あれはあの若い騎士のふざけた逃げ口上だったのかもしれない、それにあの気まぐれなもの憂さこそ、ああいう陰気な人柄にはぴったりするように思える、と思いきって言いだした。
しかし、この言葉は、