浅草公園

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浅草あさくさ仁王門におうもんなか吊っつっともらないおお提灯ちょうちん
提灯ちょうちん次第しだいうえあがり雑沓ざっとう仲店なかみせ見渡すみわたすようなる
ただしおお提灯ちょうちん下部かぶだけ消え失せきえうせない
もんまえ飛びかうとびかう無数むすうはと
雷門かみなりもんからたて仲店なかみせ
正面しょうめんはるか仁王門におうもん見えるみえる
樹木じゅもくみな枯れ木かれきばかり
仲店なかみせ片側かたがわ
外套がいとうおとこ一人ひとりじゅうさんとし少年しょうねん一しょいっしょぶらぶら仲店なかみせ歩いあるいいる
少年しょうねん父親ちちおや離れはなれ時々ときどき玩具屋おもちゃやまえ立ち止まったちどまったりする
父親ちちおや勿論もちろんこう云ういう少年しょうねん時々ときどき叱っしかったりないことない
まれかれ自身じしん少年しょうねんいること忘れわすれよう帽子ぼうし飾り窓かざりまどなど眺めながめいる
こう云ういう親子おやこうえ半身はんしん
父親ちちおやいかに田舎者いなかものらしい無精髭むせいひげ伸ばしのばしおとこ
少年しょうねん可愛いかわいい云ういうよりむしろ可憐かれんかおいる
かれとう後ろうしろ雑沓ざっとう仲店なかみせ
かれとうこちら歩いあるい来るくる
斜めななめある玩具屋おもちゃやみせ
少年しょうねんこのみせまえ佇んたたずんままつな上っのぼったり下りくだりたりする玩具がんぐさる眺めながめいる
玩具屋おもちゃやみせなかだれ見えみえない
少年しょうねん姿すがたひざうえまで
つな上っのぼったり下りくだりたりいるさる
さる燕尾服えんびふく垂れたれうえシルクしるくハットはっと仰向けあおむけかぶっいる
このつなさる後ろうしろ深いぶかいあんあるばかり
この玩具屋おもちゃやある仲店なかみせ片側かたがわ
さる少年しょうねんきゅう父親ちちおやないことつききょろきょろあたり見まわしみまわしはじめる
それから向うむこうなん見つけみつけそのほう一散いっさん走っはしっ行くいく
父親ちちおやらしいおとこ後ろ姿うしろすがた
ただしこれひざうえまで
少年しょうねんこのおとこ追いすがりおいすがりしっかり外套がいとうそで捉えるとらえる
驚いおどろいふり返っふりかえっおとこかお生憎あいにく田舎者いなかものらしい父親ちちおやない
綺麗きれい口髭くちひげ手入れていれ都会人とかいにんらしい紳士しんしある
少年しょうねんかお往来おうらいする失望しつぼう当惑とうわく満ちみち表情ひょうじょう
紳士しんし少年しょうねん残しのこしままさっさと向うむこう行っいっしまう
少年しょうねん遠いとおい雷門かみなりもん後ろうしろぼんやり一人ひとり佇んたたずんいる
もう一度いちど父親ちちおやらしい後ろ姿うしろすがた
ただし今度こんど上半身じょうはんしん
少年しょうねんこのおとこ追いついおいつい恐る恐るおそるおそるそのかお見上げるみあげる
かれとう向うむこう仁王門におうもん
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このおとこまえ向いむかいかお
かれマスクますくくち蔽っおおっ人間にんげんより動物どうぶつ近いちかいかおいる
なん悪意あくい感ぜかんぜられる微笑びしょう
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仲店なかみせ片側かたがわ
少年しょうねんこのおとこ見送っみおくっまま途方とほう暮れくれよう佇んたたずんいる
父親ちちおや姿すがたどちら眺めながめ生憎あいにくはいらないらしい
少年しょうねんちょっと考えかんがえあととうなし歩きあるきはじめる
いずれ洋装ようそう少女しょうじょ二人ふたりかれふり返っふりかえっ知らしらないよう
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金屋かなやみせ飾り窓かざりまど
近眼きんがんかがみ遠眼鏡えんがんきょう双眼鏡そうがんきょう廓大かくだいかがみ顕微鏡けんびきょう塵除けちりよけきんなど並んならんなか西洋せいようひと人形にんぎょうくびいちきんかけ頬笑んほおえんいる
そのまどまえ佇んたたずん少年しょうねん後姿うしろすがた
ただし斜めななめ後ろうしろから上半身じょうはんしん
人形にんぎょうくびおのずから人間にんげんくび変っかわっしまう
のみならこう少年しょうねん話しかけるはなしかける
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きん買っかっかけなさいお父さんおちちさん付るつけるきんかける限りかぎりますからぼく病気びょうきない
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斜めななめ造花ぞうか飾り窓かざりまど
造花ぞうかみな竹籠たけかご瀬戸物せとものばちなか開いひらいいる
なか一番いちばん大きいおおきいひだりある鬼百合おにゆりはな
飾り窓かざりまど板硝子いたがらす少年しょうねんうえ半身はんしん映しうつしはじめる
なん幽霊ゆうれいようぼんやり
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飾り窓かざりまど板硝子いたがらす越しこし造花ぞうか隔てへだて少年しょうねんうえ半身はんしん
少年しょうねん板硝子いたがらす当てあている
そのうちいき当るあたるせいかおだけぼんやり曇っくもっしまう
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飾り窓かざりまどなか鬼百合おにゆりはな
ただし後ろうしろあんある
鬼百合おにゆりはなした垂れたれいるつぼみいつ次第しだい開きひらきはじめる
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わたし美しうつくし御覧ごらんなさいってお前おまえ造花ぞうかじゃない
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かくから煙草屋たばこや飾り窓かざりまど
巻煙草まきたばこかん葉巻はまきばこパイプぱいぷなど並んならんなか斜めななめさついちばい懸っかかっいる
このさつ書いかいある煙草たばこけむり天国てんごくもんです徐ろにおもむろにパイプぱいぷから立ち昇るたちのぼるけむり
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けむり満ちみち充ちみち飾り窓かざりまど正面しょうめん
少年しょうねんこのみぎ佇んたたずんいる
ただしこれひざうえまで
けむりなかぼんやりしろさん浮かびうかびはじめる
しろThreeCastles商標しょうひょう立体りったいもの近いちかい
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それとうしろいち
このしろもん兵卒へいそつ一人ひとりじゅう持っもっ佇んたたずんいる
そのまた鉄格子てつこうしもん向うむこう棕櫚しゅろ何本なんぽんそよいいる
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このしろもんうえ
そこよこいつこう云ういう文句もんく浮かびうかび始めるはじめる
このもん入るはいるもの英雄えいゆうなるべし
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こちら歩いあるい来るくる少年しょうねん姿すがた
まえ煙草屋たばこや飾り窓かざりまど斜めななめ少年しょうねん後ろうしろ立ったっいる
少年しょうねんちょっとふり返っふりかえっあとさっさとまた歩いあるい行っいっしまう
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吊りつりかねだけ見えるみえる鐘楼しゅろう内部ないぶ
撞木しゅもくだれつな引かひか徐ろにおもむろにかね鳴らしならしはじめる
一度いちどさん鐘楼しゅろうそとまつばかり
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斜めななめ射撃しゃげきみせ
まと後ろうしろ巻煙草まきたばこばこ積みつみまえ博多はかた人形にんぎょう並べならべいる
手前てまえ並んならん空気銃くうきじゅう一列いちれつ
人形にんぎょういちドレッスどれっすつけおうぎ持っもっ西洋せいようひとおんなある
少年しょうねんきょうきょうこのみせはいり空気銃くうきじゅういちとり上げとりあげ全然ぜんぜん無分別むぶんべつまと狙うねらう
射撃しゃげきみせだれない
少年しょうねん姿すがたひざうえまで
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西洋せいようひとおんな人形にんぎょう
人形にんぎょう静かしずかおうぎひろげすっかりかお隠しかくししまう
それからこの人形にんぎょう中るあたるコルクこるく弾丸だんがん
人形にんぎょう勿論もちろん仰向けあおむけ倒れるたおれる
人形にんぎょう後ろうしろあんあるばかり
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まえ射撃しゃげきみせ
少年しょうねんまた空気銃くうきじゅうとり上げとりあげ今度こんど熱心ねっしんまと狙うねらう
さんはつよんはつはつしかしまといち落ちおちない
少年しょうねんしぶしぶ銀貨ぎんか出しだしみせそと行っいっしまう
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始めはじめただ薄暗いうすぐらいなか四角いしかきいもの見えるみえるばかり
そのなかこの四角いしかきいもの突然とつぜん電燈でんとうともし見えみえよここう云ういう浮かび上らうかびあがらせる
うえ公園こうえんろくした夜警やけい詰所つめしょ
うえ黒いくろいなかしろした黒いくろいなかあかある
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劇場げきじょううら上部じょうぶ
ともっまどいち見えるみえる
まっじか雨樋あまどいおろしかべいろいろポスタアぽすたあ剥がれはがれあと
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この劇場げきじょううら下部かぶ
少年しょうねんそこ佇んたたずんまましばらくどちら行こういこうない
それから高いたかいまど見上げるみあげる
まどだれ見えみえない
ただ逞しいたくましいブルテリアぶるてりあいちひき少年しょうねん足もとあしもと通っとおっ行くいく
少年しょうねんにおい嗅いかいながら
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同じおなじ劇場げきじょううら上部じょうぶ
ともっまど踊り子おどりこ一人ひとり現れあらわれ冷淡れいたんした往来おうらい眺めるながめる
この姿すがた勿論もちろん逆光線ぎゃっこうせんためかおなどはっきりわからない
いつ少年しょうねん可憐かれんかお現しあらわししまう
踊り子おどりこ静かしずかまどあけ小さいちいさい花束はなたばした投げるなげる
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往来おうらい立ったっ少年しょうねん足もとあしもと
小さいちいさい花束はなたばいち落ちおち来るくる
少年しょうねんこれ拾うひろう
花束はなたば往来おうらい離れるはなれる早いはやいいつうばらたば変っかわっいる
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黒いくろいいちばい掲示板けいじばん
掲示板けいじばんきたかぜはれ云ういうチョオクちょおく現しあらわしいる
それぼんやりなりみなみかぜ強かるつよかるべし雨模様あめもよう云ういう変っかわっしまう
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しゃ標札ひょうさつ露店ろてん天幕てんまくした並んならん見本みほん徳川家康とくがわいえやす二宮にのみや尊徳そんとく渡辺わたなべ崋山かざん近藤こんどういさむ近松ちかまつ門左衛門もんざえもんなど並べならべいる
こう云ういう名前なまえいつ有りあり来りきたり名前なまえ変っかわっしまう
のみならそれとう標札ひょうさつ向うむこうかすか浮んうかん来るくる南瓜かぼちゃはたけ
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いけ向うむこう並んならんなんのき映画館えいがかん
いけ勿論もちろん電燈でんとうかげ幾ついくつともなし映っうつっいる
いけひだり立ったっ少年しょうねんうえ半身はんしん
少年しょうねんぼう咄嗟とっさかぜためいけ飛んとんしまう
少年しょうねんいろいろあせっあとこちら向いむかい歩きあるきはじめる
ほとんど絶望ぜつぼう近いちかい表情ひょうじょう
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カッフェかっふぇ飾り窓かざりまど
砂糖さとうとうなま菓子かし麦藁むぎわらパイプぱいぷ入れいれ曹達水そーだすいコップこっぷなど向うむこう人かげひとかげ幾ついくつ動いうごいいる
少年しょうねんこの飾り窓かざりまどまえ通りかかりとおりかかり飾り窓かざりまどひだりあし止めとめしまう
少年しょうねん姿すがたひざうえまで
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このカッフェかっふぇ外部がいぶ
夫婦ふうふらしい中年ちゅうねん男女だんじょ二人ふたり硝子戸がらすとなかはいって行くいく
おんなマントルまんとる子供こども抱いいだいいる
そのうちカッフェかっふぇおのずからまわりコックこっく部屋へやうら現わしあらわししまう
コックこっく部屋へやうら煙突えんとついちほん
そこまた労働者ろうどうしゃ二人ふたりせっせとシャベルしゃべる動かしうごかしいる
カンテラかんてらいちともしまま
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テエブルまえ子供こども椅子いすうえ上半身じょうはんしん見せみせまえ子供こども
子供こどもにこにこ笑いわらいながらくび振っふったり挙げあげたりいる
子供こども後ろうしろなん見えみえない
そこいつ薔薇ばらはないちずつ静かしずか落ちおちはじめる
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斜めななめ見えるみえる自動じどう計算器けいさんき
計算器けいさんきまえしきりなし動いうごいいる
勿論もちろんおんな違いちがいない
それから絶えたえ開かひらかれる抽斗ひきだし
抽斗ひきだしなかせんばかりある
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まえカッフェかっふぇ飾り窓かざりまど
少年しょうねん姿すがた変りかわりない
しばらくあと少年しょうねん徐ろにおもむろに振り返りふりかえり足早あしばやこちら歩いあるい来るくる
かおばかりなっちょっと立ちどまったちどまっなん見るみる
多少たしょう驚きおどろき近いちかい表情ひょうじょう
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人だかりひとだかりまん中まんなか立ったっ糶りせり商人しょうにん
かれ呉服ごふくものひろげなか立ちたちいちほんおびふりながら熱心ねっしん人だかりひとだかり呼びかけよびかけいる
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かれ持っもっいちほんおび
おび前後ぜんご左右さゆう振らふらながら片はしかたはし二三にさんさし現しあらわしいる
おび模様もよう廓大かくだい雪片せっぺん
雪片せっぺん次第しだいまわりながらくるくるおびそと落ちおちはじめる
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メリヤスめりやす露店ろてん
シャツしゃつズボンずぼんした吊っつっしたばあさん一人ひとり行火あんか当っあたっいる
ばあさんまえメリヤスめりやするい
毛糸けいと編みものあみもの交っかっないことない
行火あんかすそ黒猫くろねこいちひき時々ときどき前足まえあし嘗めなめいる
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行火あんかすそ坐っすわっいる黒猫くろねこ
ひだり少年しょうねんした半身はんしん見えるみえる
黒猫くろねこ始めはじめ変りかわりない
しかしいつあたまうえりゅう長いながいトルコ帽とるこぼうかぶっいる
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ぼうちゃんスウェエタアいち買いかいなさいぼく帽子ぼうしさえ買えかえない
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メリヤスめりやす露店ろてん後ろうしろ疲れつかれらしい少年しょうねんうえ半身はんしん
少年しょうねんなみだ流しながしはじめる
やっととり直しとりなおし高いたかいそら見上げみあげながらもう一度いちどこちら歩きあるきはじめる
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かすかほしかがやい夕空ゆうぞら
そこ大きいおおきいかおいちおのずからぼんやり浮かんうかん来るくる
かお少年しょうねん父親ちちおやらしい
愛情あいじょうこもっいるものなん無限むげんもの悲しいものがなしい表情ひょうじょう
しかしこのかおしばらくあときりようどこ消えきえしまう
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たて往来おうらい
少年しょうねんこちら後ろうしろ見せみせままこの往来おうらい歩いあるい行くいく
往来おうらい余りあまり人通りひとどおりない
少年しょうねん後ろうしろから歩いあるい行くいくおとこ
このおとこちょっと振り返りふりかえりマスクますくかけかお見せるみせる
少年しょうねん一度いちど後ろうしろない
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斜めななめ格子戸こうしと造りつくりいえ外部がいぶ
いえまえ人力車じんりきしゃさんだい後ろ向きうしろむき止まっとまっいる
人通りひとどおりやはり沢山たくさんない
角隠しつのかくしつけ花嫁はなよめ一人ひとり何人なんにん人々ひとびと一しょいっしょ格子戸こうしと静かしずかまえ人力車じんりきしゃ乗るのる
人力車じんりきしゃさんだいともひと乗せるのせる花嫁はなよめさき走っはしっ行くいく
そのあとから少年しょうねん後ろ姿うしろすがた
格子戸こうしといえまえ立ったっ人々ひとびと勿論もちろん少年しょうねんやらない
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XYZ会社かいしゃ特製とくせいしな迷い子まいご文芸ぶんげいまと映画えいが書いかい長方形ちょうほうけいいた
これこのいた前後ぜんごサンドウィッチさんどうぃっちマンまん変っかわっしまう
サンドウィッチさんどうぃっちマンまんねんとっいるものどこ仲店なかみせ歩いあるい都会人とかいにんらしい紳士しんしいる
後ろうしろまえより人通りひとどおり多いおおいいろいろみせ並んならん往来おうらい
少年しょうねんそこ通りかかりとおりかかりサンドウィッチさんどうぃっちマンまん配っくばっいる広告こうこくいちばい貰っもらっ行くいく
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たてまえ往来おうらい
松葉杖まつばつえつい癈兵はいへい一人ひとりゆっくり向うむこう歩いあるい行くいく
癈兵はいへいいつ駝鳥だちょう変っかわっいる
しばらく歩いあるい行くいくうちまた癈兵はいへいなっしまう
横町よこちょうかくポストぽすといち
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急げいそげ急げいそげいつ何時なんじ死ぬしぬ知れしれない
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往来おうらいかく立ったっいるポストぽすと
ポストぽすといつ透明とうめいなり無数むすう手紙てがみ折り重なっおりかさなっ円筒えんとう内部ないぶ現しあらわし見せるみせる
見る見るみるみるまえようただポストぽすと変っかわっしまう
ポストぽすと後ろうしろあんあるばかり
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斜めななめ芸者げいしゃまち
お座敷おざしき出るでる芸者げいしゃ二人ふたりある御神燈おかみあかりともっ格子戸こうしと静かしずかこちら歩いあるい来るくる
どちらなん表情ひょうじょう見せみせない
二人ふたり芸者げいしゃ通りとおりすぎあと向うむこう歩いあるい行くいく少年しょうねん姿すがた
少年しょうねんちょっとふり返っふりかえっ見るみる
まえよりさらに寂しいさびしい表情ひょうじょう
少年しょうねんだんだん小さくちいさくなっ行くいく
そこ向うむこう立ったっ低いひくい声色こわいろ遣いつかい一人ひとりやはりこちら歩いあるい来るくる
かれ目のあたりまのあたり近づいちかづい見るみるどこ少年しょうねんないことない
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大きいおおきい針金はりがねかんまわりぐるり何本なんぽんぶら下げぶらさげかもじ
かもじなかすき毛すきげ入りいり前髪まえがみ立てたて書いかいさつ下っしたっいる
これとうかもじいつ理髪店りはつてんぼう変っかわっしまう
ぼう後ろうしろあんあるばかり
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理髪店りはつてん外部がいぶ
大きいおおきいまど硝子がらす向うむこう男女だんじょ何人なんにん動いうごいいる
少年しょうねんそこ通りかかりとおりかかりちょっと内部ないぶ覗いのぞい見るみる
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あたま刈っかっいるおとこ横顔よこがお
これしばらくたったあと大きいおおきい針金はりがねかんぶら下げぶらさげ何本なんぽんかもじ変っかわっしまう
かもじなか下っしたっさついちばい
さつ今度こんど入れ毛いれげ書いかいある
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セセッションせせっしょんかぜ出来上っできあがっ病院びょういん
少年しょうねんこちらから歩み寄りあゆみよりいし階段かいだん登っのぼっ行くいくしかしなかはいっ思うおもうすぐまた階段かいだん下っしたっ来るくる
少年しょうねんひだり行っいっあと病院びょういん静かしずかこちら近づきちかづきとうとう玄関げんかんだけなっしまう
その硝子戸がらすと押しあけおしあけそと来るくる看護婦かんごふ一人ひとり
看護婦かんごふ玄関げんかん佇んたたずんままなん遠いとおいもの眺めながめいる
58 ひざうえ組んくん看護婦かんごふ両手りょうて
まえなっひだり婚約こんやく指環ゆびわいちはまっいる
指環ゆびわおのずからきゅうした落ちおちしまう
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わずかそら残しのこしコンクリイトこんくりいとへい
これおのずから透明とうめいなり鉄格子てつこうしなかぐんなんひきさる現しあらわし見せるみせる
それからまたへい全体ぜんたい操りあやつり人形にんぎょう舞台ぶたい変っかわっしまう
舞台ぶたいとにかく西洋せいようじみ室内しつない
そこ西洋せいようひと人形にんぎょういちきょうきょうあたり窺っうかがっいる
覆面ふくめんかけいる見るみるこのむろ忍びこんしのびこん盗人ぬすびとらしい
むろすみ金庫きんこいち
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金庫きんここじあけいる西洋せいようひと人形にんぎょう
ただしこの人形にんぎょう手足てあしつい細いほそいいと何本なんぽんはっきり見えるみえる
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斜めななめまえコンクリイトこんくりいとへい
へいもうなん現しあらわしない
そこ通りとおりすぎる少年しょうねんかげ
そのあとから今度こんどむしかげ
62
まえから斜めななめ見おろしみおろし往来おうらい
往来おうらいうえ落ち葉おちばいちばいかぜ吹かふかまわっいる
そこまた舞い下っまいくだっ来るくるまえより小さいちいさい落葉らくよういちばい
最後さいご雑誌ざっし広告こうこくらしいかみいちばい翻っひるがえっ来るくる
かみ生憎あいにく引き裂かひきさかいるらしい
はっきり見えるみえる生活せいかつ正月しょうがつごう云ういう初号しょごう活字かつじある
63
大きいおおきい常磐木ときわぎしたあるベンチべんち
木々きぎ向うむこう見えみえいるまえいけ一部いちぶらしい
少年しょうねんそこ歩み寄りあゆみよりがっかりようこしかける
それからなみだ拭いぬぐいはじめる
するまえむし一人ひとりやはりベンチべんちこしかける
時々ときどきかぜ揺れるゆれる後ろうしろ常磐木ときわぎ
少年しょうねんふとむし見つめるみつめる
むしふり返りふりかえりない
のみならふところから焼き芋やきいも出しだしがつがついるよう食いくいはじめる
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焼き芋やきいも食っしょくっいるむしかお
65
まえ常磐木ときわぎかげあるベンチべんち
むしやはり焼き芋やきいも食っしょくっいる
少年しょうねんやっと立ち上りたちあがりあたま垂れたれどこ歩いあるい行くいく
66
斜めななめうえから見おろしみおろしベンチべんち
いた透かしすかしベンチべんちうえ蟇口がまぐちいち残っのこっいる
するだれいちそっとその蟇口がまぐちとり上げとりあげしまう
67
まえ常磐木ときわぎかげあるベンチべんち
ただし今度こんど斜めななめなっいる
ベンチべんちうえむし一人ひとり蟇口がまぐちなか検べしらべいる
そのうちいつむし左右さゆうむし何人なんにん現れあらわれはじめとうとうしまいベンチべんちうえむしばかりなっしまう
しかもかれとう同じおなじようそれぞれみな熱心ねっしん蟇口がまぐちなか検べしらべいる
たがいなん話し合いはなしあいながら
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写真屋しゃしんや飾り窓かざりまど
男女だんじょ写真しゃしん何枚なんまいそれぞれ額縁がくぶちはいっ懸っかかっいる
それとう男女だんじょかおいつ老人ろうじん変っかわっしまう
しかしそのなかたっいちばいフロックふろっくコオトこおと勲章くんしょうつけあごひげある老人ろうじん半身はんしんだけ変らかわらない
ただそのかおいつまえむしかおなっいる
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よこから観音堂かんのんどう
少年しょうねんそのした歩いあるい行くいく
観音堂かんのんどううえさんつきいち
70
観音堂かんのんどう正面しょうめん一部いちぶ
ただしとびらしまっいる
そのまえ礼拝れいはいいる何人なんにん人々ひとびと
少年しょうねんそこ歩みよりあゆみよりこちら後ろうしろ見せみせままちょっと観音かんのんどう仰いおっしゃい見るみる
それから突然とつぜんこちら向きむきさっさと斜めななめ歩いあるい行っいっしまう
71
斜めななめうえから見おろしみおろし大きいおおきい長方形ちょうほうけい手水鉢ちょうずばち
柄杓ひしゃく何本なんぽん浮かんうかんみずかげちらちら映っうつっいる
そこまた映っうつっ来るくる憔悴しょうすい切っきっ少年しょうねんかお
72
大きいおおきいいし燈籠とうろう下部かぶ
少年しょうねんそここしおろし両手りょうてかお隠しかくし泣きなきはじめる
73 まえいし燈籠とうろう下部かぶ後ろうしろ
おとこ一人ひとり佇んたたずんままなんみみ傾けかたむけいる
74
このおとこうえ半身はんしん
もっともかおだけこちら向いむかいない
静かしずか振り返っふりかえっ見るみるマスクますくかけまえおとこある
のみならそのかおしばらくあと少年しょうねん父親ちちおや変っかわっしまう
75
まえいし燈籠とうろう上部じょうぶ
いし燈籠とうろうはしら残しのこしままおのずからほのおなっ燃え上っもえあがっしまう
ほのお下火したびなっあとそこ開きひらき始めるはじめるきくはないち
きくはないし燈籠とうろうかさより大きいおおきい
76
まえいし燈籠とうろう下部かぶ
少年しょうねんまえ変りかわりない
そこぼう目深まぶかかぶっ巡査じゅんさ一人ひとり歩みよりあゆみより少年しょうねんかたかける
少年しょうねん驚いおどろい立ち上りたちあがりなん巡査じゅんさはなしする
それから巡査じゅんさ引かひかまま静かしずか向うむこう歩いあるい行くいく
77
まえいし燈籠とうろう下部かぶ後ろうしろ
今度こんどもうだれない
78
まえ仁王門におうもんおお提灯ちょうちん
おお提灯ちょうちん次第しだいうえあがりまえよう仲店なかみせ見渡すみわたすようなる
ただしおお提灯ちょうちん下部かぶだけ消え失せきえうせない
昭和しょうわねんさんつき十四じゅうよん
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