闇中問答

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あるこえ お前おまえおれ思惑おもわく全然ぜんぜんつた人間にんげんだつ
ぼく それぼく責任せきにんない
あるこえ しかしお前おまえその誤解ごかいお前おまえ自身じしん協力きょうりょくゐる
ぼく ぼく一度いちど協力きょうりょくことない
あるこえ しかしお前おまえ風流ふうりゅう愛しあいし或はあるいは愛しあいしやうそうたらう
ぼく ぼく風流ふうりゅう愛しあいしゐる
あるこえ お前おまえどちら愛しあいしゐる
風流ふうりゅう
それ一人ひとりおんな
ぼく ぼくどちら愛しあいしゐる
あるこえ 冷笑れいしょうそれ矛盾むじゅん思はおもうはない見えるみえる
ぼく だれ矛盾むじゅん思ふおもふもの
一人ひとりおんな愛するあいするものふる瀬戸せと茶碗ちゃわん愛さあいさない知れしれない
しかしそれふる瀬戸せと茶碗ちゃわん愛するあいする感覚かんかく持たもたないから
あるこえ 風流ふうりゅうひとどちら選ばえらばなけれなら
ぼく ぼく生憎あいにく風流ふうりゅうひとよりずつとさわよく生まれついうまれついゐる
しかし将来しょうらい一人ひとりおんなよりふる瀬戸せと茶碗ちゃわん選ぶえらぶ知れしれない
あるこえ お前おまえ不徹底ふてってい
ぼく 若しもしそれ不徹底ふてってい云ふいふならインフルエンザいんふるえんざつたあと冷水れいすい摩擦まさつやつゐるものだれより徹底てっていゐるだら
あるこえ もう強がるつよがるやめしま
お前おまえ内心ないしんじゃくゐる
しかし当然とうぜんお前おまえ受けるうける社会的しゃかいてき非難ひなんはね返すはねかえすためそんなこと言ついつゐるだけだら
ぼく ぼく勿論もちろんそのつもり
第一だいいち考へかんがへ見るみる善いよい
はね返さはねかえさなかつた最後さいご押しつぶさおしつぶさしまふ
あるこえ お前おまえなん云ふいふ図々しいずうずうしいやつ
ぼく ぼく少しすこし図々しくずうずうしくない
ぼく心臓しんぞう瑣細ささいことあつこおりつたやうひやひやゐる
あるこえ お前おまえさわ力者りきしゃつもりゐる
ぼく 勿論もちろんぼくさわ力者りきしゃ一人ひとり
しかし最大さいだいさわ力者りきしゃない
若しもし最大さいだいさわ力者りきしゃつたすれあのゲエテ云ふいふおとこやう安んじやすんじ偶像ぐうぞうなつあらう
あるこえ ゲエテ恋愛れんあい純潔じゅんけつ
ぼく それ
文芸ぶんげいふみいえ
ゲエテ丁度ちょうど三十五さんじゅうごねん突然とつぜん伊太利いたりー逃走とうそうゐる
さう
逃走とうそう云ふいふそとない
あの秘密ひみつゐるものゲエテ自身じしん例外れいがいすれシユタイン夫人ふじん一人ひとりだけだら
あるこえ お前おまえ言ふいふこと自己じこ弁護べんご
自己じこ弁護べんごくらい易いやすいものない
ぼく 自己じこ弁護べんご容易よういない
若しもし易いやすいものすれ弁護士べんごし云ふいふ職業しょくぎょう成り立たなりたたないはず
あるこえ 口巧者くちこうしゃ横着おうちゃくのめ
だれもうお前おまえ相手あいてない
ぼく ぼくまだぼく感激かんげき与へあたへ樹木じゅもくみず持つもつゐる
それから和漢わかん東西とうざいほん三百さんびゃくさつ以上いじょう持つもつゐる
あるこえ しかしお前おまえ永久えいきゅうお前おまえ読者どくしゃ失つうしなつしまふ
ぼく ぼく将来しょうらい読者どくしゃ持つもつゐる
あるこえ 将来しょうらい読者どくしゃパンぱんくれる
ぼく 現世げんせ読者どくしゃさへ碌にろくにくれない
ぼく最高さいこう原稿料げんこうりょういちばいじゅうえんかぎり
あるこえ しかしお前おまえ資産しさん持つもつたらう
ぼく ぼく資産しさん本所ほんじょあるねこがくほど地面じめんだけ
ぼく月収げっしゅう最高さいこう三百さんびゃくえん越えこえことない
あるこえ しかしお前おまえいえ持つもつゐる
それから近代きんだい文芸ぶんげい読本とくほんぼく あのいえ棟木むなぎぼく重たいおもたい
近代きんだい文芸ぶんげい読本とくほん印税いんぜいいつお前おまえ用立てようだてやる
ぼくもらえ四五百しごひゃくえんから
あるこえ しかしお前おまえあの読本とくほん編者へんしゃ
それだけお前おまえ恥ぢはぢなけれなら
ぼく なんぼく恥ぢはぢ云ふいふ
あるこえ お前おまえ教育家きょういくか仲間入りなかまいり
ぼく それ
教育家きょういくかこそぼくとう仲間入りなかまいりゐる
ぼくその仕事しごと取り戻しとりもどし
あるこえ お前おまえそれ夏目なつめ先生せんせい弟子でし
ぼく ぼく勿論もちろん夏目なつめ先生せんせい弟子でし
お前おまえぶんすみ親しんしたしん漱石そうせき先生せんせいゐる知れしれない
しかしあの違ひちがひじみ天才てんさい夏目なつめ先生せんせい知らしらないだら
あるこえ お前おまえ思想しそう云ふいふものない
偶々たまたまある矛盾むじゅんだらけ思想しそう
ぼく それぼく進歩しんぽする証拠しょうこ
阿呆あほういつまで太陽たいようたらいより小さいちいさい思つおもつゐる
あるこえ お前おまえ傲慢ごうまんお前おまえ殺すころす
ぼく ぼく時々ときどきかう思つおもつゐる
或はあるいはぼくたたみうえ往生おうじょうない人間にんげん知れしれない
あるこえ お前おまえ恐れおそれない見えるみえる
ぼく ぼく死ぬしぬこと怖れおそれゐる
死ぬしぬこと困難こんなんない
ぼく二三にさんくびくつもの
しかし二十にじゅうびょうばかり苦しんくるしんあとある快感かいかんさへ感じかんじ来るくる
ぼくより不快ふかいことかいいつ死ぬしぬためないつもり
あるこえ なぜお前おまえ死なしなない
お前おまえだれから法律上ほうりつじょう罪人ざいにんない
ぼく ぼくそれ承知しょうちゐる
ヴエルレエンやうワグナアやう或はあるいはまた大いなるおおいなるストリントベリイすとりんとべりいやう
あるこえ しかしお前おまえない
ぼく いやぼくつてゐる
苦しみくるしみまさるない
あるこえ お前おまえかたない悪人あくにん
ぼく ぼく寧ろむしろぜん男子だんし
若しもし悪人あくにんつたすれぼくやう苦しみくるしみない
のみなら必ずかならず恋愛れんあい利用りようおんなからきん絞るしぼるだら
あるこえ お前おまえ阿呆あほう知れしれない
ぼく さう
ぼく阿呆あほう知れしれない
あの痴人ちじん懺悔ざんげなど云ふいふほんぼく近いちかい阿呆あほう書いかいもの
あるこえ そのうえお前おまえ世間せけん
ぼく 世間せけん知りしり最上さいじょうすれ実業家じつぎょうかなんより高等こうとうだら
あるこえ お前おまえ恋愛れんあい軽蔑けいべつ
しかしいまなつ見れみれ畢竟ひっきょう恋愛れんあい至上しじょう主義者しゅぎしゃだつ
ぼく いやぼく今日きょう断じだんじ恋愛れんあい至上しじょう主義者しゅぎしゃない
ぼく詩人しじん
芸術家げいじゅつか
あるこえ しかしお前おまえ恋愛れんあいため父母ふぼ妻子さいし抛つなげうつない
ぼく つけ
ぼくただぼく自身じしんため父母ふぼ妻子さいし抛つなげうつ
あるこえ お前おまえエゴイストえごいすと
ぼく ぼく生憎あいにくエゴイストえごいすとない
しかしエゴイストえごいすとなりたい
あるこえ お前おまえ不幸ふこう近代きんだいエゴえご崇拝すうはいかぶれゐる
ぼく それこそぼく近代きんだいひと
あるこえ 近代きんだいひと古人こじんわかない
ぼく 古人こじんまた一度いちど近代きんだいひとだつ
あるこえ お前おまえ妻子さいし憐まあわれまない
ぼく だれ憐まあわれまられものある
ゴオギヤアン手紙てがみ読んよん見ろみろ
あるこえ お前おまえお前おまえことどこまで是認ぜにんするつもり
ぼく どこまで是認ぜにんゐるすれなんお前おまえ問答もんどうなどない
あるこえ やはり是認ぜにんゐる
ぼく ぼくただあきらめゐる
あるこえ しかしお前おまえ責任せきにんどうする
ぼく よんぶんいちぼく遺伝いでんよんぶんいちぼく境遇きょうぐうよんぶんいちぼく偶然ぐうぜんぼく責任せきにんよんぶんいちだけ
あるこえ お前おまえなん云ふいふ下等したとうやつ
ぼく だれぼくくらい下等したとうだら
あるこえ お前おまえ悪魔あくま主義者しゅぎしゃ
ぼく ぼく生憎あいにく悪魔あくま主義者しゅぎしゃない
殊にことに安全地帯あんぜんちたい悪魔あくま主義者しゅぎしゃつね軽蔑けいべつ感じかんじゐる
あるこえ 暫くしばらく無言むごん兎に角とにかくお前おまえ苦しんくるしんゐる
それだけ認めみとめやつ善いよい
ぼく いやうつかりかい冠るかぶる
ぼく或はあるいは苦しんくるしんゐること誇りほこり持つもつゐる知れしれない
のみなら得れえれしつ惧るおそるさわ力者りきしゃすることないだら
あるこえ お前おまえ或はあるいは正直しょうじきもの知れしれない
しかしまた或はあるいは道化者どうけしゃ知れしれない
ぼく ぼくまたどちら思つおもつゐる
あるこえ お前おまえいつもお前おまえ自身じしん現実主義者げんじつしゅぎしゃ信じしんじ
ぼく ぼくそれほど理想りそう主義者しゅぎしゃだつ
あるこえ お前おまえ或はあるいは滅びるほろびる知れしれない
ぼく しかしぼくつくりつたものだいぼく造るつくるだら
あるこえ 勝手にかってに苦しむくるしむ善いよい
おれもうお前おまえ別れるわかれるばかり
ぼく 待てまて
どうそのまえ聞かきか呉れくれ
絶えたえぼく問ひとひかけるお前おまえ見えみえないお前おまえ何ものなにもの
あるこえ おれ
おれ世界せかい夜明けよあけヤコブやこぶちからそうつた天使てんし
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