闇中問答

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あるこえ お前おまえなんゐる
ぼく ぼくただ書いかいゐる
あるこえ なぜお前おまえ書いかいゐる
ぼく ただ書かかかられないから
あるこえ 書けかけ
死ぬしぬまで書けかけ
ぼく 勿論もちろんだいいちそのそとかたない
あるこえ お前おまえ存外ぞんがい落ち着いおちついゐる
ぼく いや少しすこし落ち着いおちついない
若しもしぼくゐる人々ひとびとならぼく苦しみくるしみゐるだら
あるこえ お前おまえ微笑びしょうどこ行つおこなつ
ぼく 天上てんじょう神々かみがみ帰つかえつまつ
人生じんせい微笑びしょう送るおくるためだいいち吊りつりあわせ取れとれ性格せいかくだいきんだいさんぼくより逞しいたくましい神経しんけい持つもつなけれなら
あるこえ しかしお前おまえ気軽きがるなつたらう
ぼく うんぼく気軽きがるなつ
その代りかわりはだかかたうえ一生いっしょう重荷おもに背負はせおいはなけれなら
あるこえ お前おまえお前おまえなり生きるいきるそとない
或はあるいはまたお前おまえなりぼく さう
ぼくなり死ぬしぬそとない
あるこえ お前おまえ在来ざいらいお前おまえつた新らしいあたらしいお前おまえなるだら
ぼく ぼくいつぼく自身じしん
ただかわ変るかわるだら
へびかわ脱ぎぬぎ変へるかえるやう
あるこえ お前おまえなんかれ承知しょうちゐる
ぼく いやぼく承知しょうちない
ぼく意識いしきゐるぼくたましい一部分いちぶぶんだけ
ぼく意識いしきない部分ぶぶんぼくたましいアフリカあふりかどこまで茫々ぼうぼうひろしゐる
ぼくそれ恐れおそれゐる
ひかりなか怪物かいぶつ棲ますまない
しかし無辺むへんやみなかなんまだ眠つねぶつゐる
あるこえ お前おまえまたおれ子供こどもだつ
ぼく だれぼく接吻せっぷんお前おまえ
いやぼくお前おまえゐる
あるこえ おれだれ思ふおもふ
ぼく ぼく平和へいわ奪つうばつもの
ぼくエピキユリアニズムつたもの
ぼくいやぼくばかりない
むかし支那しな聖人せいじん教へきょうへ中庸ちゅうよう精神せいしん失はしつはせるもの
お前おまえ犠牲ぎせいなつもの至る所いたるところよこゐる
文学史ぶんがくしうえ新聞しんぶん記事きじうえ
あるこえ それお前おまえなん呼んよんゐる
ぼく ぼくぼくなん呼ぶよぶ知らしらない
しかし他人たにん言葉ことば借りれかりれお前おまえぼくとう超えこえちから
ぼくとう支配しはいする
あるこえ お前おまえお前おまえ自身じしん祝福しゅくふくしろ
おれだれ話しはなしない
ぼく いやぼくだれよりお前おまえ来るくる警戒けいかいするつもり
お前おまえ来るくるところ平和へいわない
しかもお前おまえレントゲンれんとげんやうあらゆるもの滲透しんとう来るくる
あるこえ 今後こんご油断ゆだんする
ぼく 勿論もちろん今後こんご油断ゆだんない
ただペンぺん持つもつゐるあるこえ ペンぺん持つもつゐる来いこい云ふいふ
ぼく だれ来いこい云ふいふもの
ぼく群小ぐんしょう作家さっか一人ひとり
また群小ぐんしょう作家さっか一人ひとりなりたい思つおもつゐるもの
平和へいわそのそととくられるものない
しかしペンぺん持つもつゐるお前おまえなる知れしれない
あるこえ いつもつけゐろ
第一だいいちおれお前おまえ言葉ことば一々いちいち実行じっこう移すうつす知れしれない
やうなら
いつまたお前おまえかい来るくるから
ぼく 一人ひとりなる
芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ
芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけお前おまえしつかりおろせ
お前おまえかぜ吹かふかゐるあし
空模様そらもよういつなん変るかわる知れしれない
ただしつかり踏んふんつてゐろ
それお前おまえ自身じしんため
同時どうじまたお前おまえ子供たちこどもたちため
うぬ惚れるほれる
同時どうじ卑屈ひくつなる
これからお前おまえやり直すやりなおす
昭和しょうわねん遺稿いこう
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