永日小品

その二間の中に立って、上を見た。薔薇は高く這い上って行く。鼠色の壁は薔薇の蔓の届かぬ限りを尽くして真直に聳えている。屋根が尽きた所にはまだ塔がある。日はそのまた上の靄の奥から落ちて来る。

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足元あしもとおかピトロクリぴとろくりたに落ち込んおちこん届くとどくはるかした平たくひらたくいろ埋まっうまっいる
その向う側むこうがわやま上るのぼるところ層々そうそうかば黄葉こうよう段々だんだん重なり合っかさなりあっ濃淡のうたんさかいくかいなく出来できいる
明かあきらか寂びさび調子ちょうしたに一面いちめん反射はんしゃ来るくる真中まなか黒いくろいすじよこって動いうごいいる
泥炭でいたん含んふくん渓水けいすいそめこな溶いといよう古びふるびいろなる
この山奥やまおく始めはじめこんなりゅう
あとから主人しゅじん
主人しゅじんひげじゅうつき照らさてらさななぶんがた白くしろくなりかけ
かたちそう尋常じんじょうない
こしキルトきるというもの着けつけいる
くるま膝掛ひざかけよう粗いあらいしま織物おりものある
それ行灯あんどんはかま膝頭ひざがしらまで裁ったったてひだ置いおいからひざすね太いふとい毛糸けいと靴足袋くつたび隠すかくすばかりある
歩くあるくたびキルトきるとひだ揺れゆれひざまたちらちら出るでる
にくいろはじ置かおかむかしはかまある
主人しゅじん毛皮けがわ作っつくっ小さいちいさい木魚もくぎょほど蟇口がまぐちまえぶら下げぶらさげいる
よる煖炉だんろそば椅子いす寄せよせおとする赤いあかい石炭せきたん眺めながめながらこの木魚もくぎょなかからパイプぱいぷ出すだす煙草たばこ出すだす
そうぷかりぷかり夜長よなが吹かすふかす
木魚もくぎょスポーラン云ういう
主人しゅじんいっしょがけ下りくだり小暗いおぐらいみち這入っはいっ
スコッチすこっちファーふぁー云ういう常磐木ときわぎ刻みきざみ昆布こんぶくも這いはいかかっ払っはらっ落ちおちないよう見えるみえる
その黒いくろいみきちょろちょろ栗鼠りす長くながく太っふとっ揺っゆっ駆け上っかけのぼっ
思うおもう古くふるく厚みあつみついこけうえまたいちひきひとみから疾くとく駆け抜けかけぬけものある
こけ膨れふくれまま動かうごかない
栗鼠りす蒼黒いあおぐろい払子ほっすごとく擦っすっ暗がりくらがり入っはいっ
主人しゅじんよこふり向いふりむいピトロクリぴとろくり明るいあかるいたに指さしゆびさし
黒いくろいかわ依然いぜんその真中まなか流れながれいる
あのかわいちさとはんきた溯るさかのぼるキリクランキーきりくらんきー峡間きょうかんある云っいっ
高地こうちひと低地ていちひとキリクランキーきりくらんきー峡間きょうかん戦ったたかっかばねいわきょうっていわ打つうつみず塞いせい
高地こうちひと低地ていちひと飲んのんかわ流れながれいろ変えかえさんピトロクリぴとろくりたに通っとおっ
自分じぶん明日あす早朝そうちょうキリクランキーきりくらんきー古戦場こせんじょう訪おうおとなおう決心けっしん
がけからたらあしした美しいうつくしい薔薇ばら花弁かべん二三にさんかた散っちっ
こえ
豊三郎とよさぶろうこの下宿げしゅく越しこしからさんなる
始めはじめ薄暗いうすぐらい夕暮ゆうぐれなか一生懸命いっしょうけんめい荷物にもつ片づけかたづけやら書物しょもつ整理せいりやら忙しいいそがしいかげごとく動いうごい
それからまち入っはいっ帰るかえるいなしまっ
明るあかる学校がっこうから戻るもどるつくえまえ坐っすわっしばらく書見しょけんきゅう居所きょしょ変っかわっせい全くまったく乗らのらない
まどそとしきりのこぎりおとする
豊三郎とよさぶろう坐っすわっまま延しのし障子しょうじ明けあけ
するついはなさき植木屋うえきやせっせと梧桐ごどうえだおろしいる
可なりかなり大きくおおきく延びのびやつおしなくまたからごしごし引いひいした落しおとし行くいくうち切口きりくち白いしろいところ目立つめだつくらい夥しくおびただしくなっ
同時どうじ空しいむなしいそら遠くとおくからまどあつまるよう広くひろく見えみえ出しだし
豊三郎とよさぶろうつくえ頬杖つらづえ突いつい何気なんげなく梧桐ごどううえ高くたかく離れはなれ秋晴あきばれ眺めながめ
豊三郎とよさぶろう梧桐ごどうからそら移しうつしきゅう大きなおおきな心持こころもち
その大きなおおきな心持こころもちしばらく落ちついおちつい来るくるうち懐かしいなつかしい故郷こきょう記憶きおくてん打っうっよう