坑夫

その一人が、まぐれ当りに自分に廻り合せると云う運勢をもって生れて来なくっちゃ、とても商売にならないはずだ。だから大川端で眼の下三尺の鯉を釣るよりもよっぽどの根気仕事だと、始めから腰を据えてかかるのが当然なんだが、長蔵さんはとんとそんな自覚は無用だと云わぬばかりの顔をして、これが世間もっとも普通の商売であると社会から公認されたような態度で、わるびれずに往来の男を捉まえる。するとその捉まえられた男が、不思議な事に、一も二もなく、すぐにうんと云う。何となくこれが世間もっとも普通の商売じゃあるまいかと疑念を起すように成功する。これほど成功する商売なら、日本に一人じゃとても間に合わない、幾人あっても差支ないと云う気になる。――当人は無論そう思ってるんだろう。自分もそう思った。

3
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二人ふたりともこしから手拭てぬぐい出しだしばたばたあしはたいいる
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ところ主人しゅじん次の間つぎのまからちゃ煙草盆たばこぼん持っもっ
主人しゅじん次の間つぎのまちゃ煙草盆たばこぼん云ういうすこぶる尋常じんじょう聞えるきこえるその実名じつめいばかり一々いちいち説明せつめいする大変たいへん誤解ごかい呆れ返るあきれかえるものばかりある
とにかく主人しゅじん次の間つぎのまからちゃ煙草盆たばこぼん持っもっ違いちがいない
そう長蔵ちょうぞうさん談話だんわ始めはじめ
談話だんわすじ忘れわすれその様子ようすから察するさっする二人ふたりもとから知合しりあいたがいかしかりあるらしい
なんうまことしきり云っいっ
自分じぶん赤毛あかげぬの小僧こぞうなどことまるで聞きききない
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自分じぶん長蔵ちょうぞうさん主人しゅじんはなし聞きききながら居眠いねむり始めはじめ
いつから始めはじめ知らしらない
うまうり損っそこなっどう云ういうところからだんだん判然はんぜんなくなっ自然しぜん長蔵ちょうぞうさん消えるきえる
赤毛あかげぬの消えるきえる
小僧こぞう消えるきえる
主人しゅじんちゃ煙草盆たばこぼん消えきえ破屋はおくまで消えきえこくりねむり覚めさめ
つくあたまむねうえ落ちおちいる
はっと思っおもっ擡げるもたげるはなはだ重いおもい
主人しゅじんやっぱりうまはなしいる
まだうま思っおもってるうちまた遠くとおくなっ
遠くとおくなっ遠いとおいまま遣っつかっ置くおく忽然こつぜんぱっあい
薄暗いうすぐらい部屋へやなかかげよう長蔵ちょうぞうさん亭主ていしゅひざ突き合せつきあわせいる
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この亭主ていしゅがく長くながくってしゃあたま天辺てっぺんまで引込んひきこんでるからよこから見るみる切通しきりどおしさかくらい勾配こうばいある
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自分じぶんくも埋まっうまっいる
残るのこるさんひと埋まっうまっいる
天下てんかくもなっから世の中よのなか自分じぶんともたっよんひとある
そう