草枕

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かがみいけ見るみる
観海みかいてら裏道うらみちすぎからたに降りふり向うむこうやま登らのぼらうちみち二股ふたまた岐れわかれおのずからかがみいけ周囲しゅういなる
いけえん熊笹くまざさ多いおおい
あるところ左右さゆうから生いいい重なっかさなっほとんどおと立てたて通れとおれない
木の間このまから見るみるいけみず見えるみえるどこ始まっはじまっどこ終るおわる一応いちおう廻っまわっうえない見当けんとうつか
あるい見るみる存外ぞんがい小さいちいさい
さんていほどよりあるまい
ただ非常ひじょう不規則ふきそくかたちところどころいわ自然しぜんまま水際みずぎわ横わっよこたわっいる
えん高さたかさいけかたち名状めいじょうがたいようなみ打っうっ色々いろいろ起伏きふく不規則ふきそく連ねつらねいる
いけめぐりては雑木ぞうき多いおおい
何百なんびゃくほんある勘定かんじょう切れきれ
なかまだはる吹いふいおらある
割合わりあいえだしげるないところ依然いぜんうららかはる受けうけ萌え出でもえいで下草したくささえある
壺菫つぼすみれあわかげちらりちらりその見えるみえる
日本にっぽんすみれ眠っねむっいる感じかんじある
天来てんらい奇想きそうよう形容けいよう西人せいじんとうていあてはまるまい
こう思うおもう途端とたんあしとまっ
あしとまれいやなるまでそこいる
られる幸福こうふくひとある
東京とうきょうそんなことすれすぐ電車でんしゃ引き殺さひきころされる
電車でんしゃ殺さころさなけれ巡査じゅんさ追い立てるおいたてる
都会とかい太平たいへいみん乞食こじき間違えまちがえ掏摸すり親分おやぶんたる探偵たんてい高いたかい月俸げっぽう払うはらうところある
くさしとね太平たいへいしりそろり卸しおろし
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自然しぜんありがたいところここある
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たもとから煙草たばこ出しだしすんりんシュッしゅっ擦るする
おうあっ見えみえない
敷島しきしまさき付けつけ吸っすっみるはなからけむり
なるほど吸っすっようやくつい
すんりん短かいみじかいくさなかしばらく雨竜うりゅうよう細いほそい煙りけむり吐いはいすぐ寂滅じゃくめつ
せきずらせだんだん水際みずぎわまで見るみる
しとね天然てんねんいけなかながれ込んこんあし浸せひたせ生温いなまぬりいみずつく知れしれ云ういう間際まぎわとまる
みず覗いのぞい見るみる
届くとどくところさましんそうない
そこ細長いほそながい水草みずくさ往生おうじょう沈んしずんいる
往生おうじょう云ういうよりほか形容けいようべき言葉ことば知らしら
おかうすなら靡くなびくこと知っしっいる
くさなら誘うさそうなみ情けなさけ待つまつ
ひゃくねん待っまっ動きうごきそうないみずそこ沈めしずめられこの水草みずくさ動くうごくべきすべて姿勢しせい調えととのえ朝な夕なあさなゆうな弄らいじらるる待ち暮らしまちくらし待ち明かしまちあかし幾代いくよおもうくきさき籠めこめながらいま至るいたるまでついに動きうごきとくまた死にしに切れきれ生きいきいるらしい
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功徳くどくなる思っおもっからさきいち抛り込んほうりこんやる
ぶくぶくあわ浮いういすぐ消えきえ
すぐ消えきえすぐ消えきえこころうち繰り返すくりかえす
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南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
今度こんど思い切っおもいきっ懸命けんめい真中まなかなげる
ぽかん幽かかすかおと
静かしずかなるもの決してけっして取り合わとりあわない
もう抛げるなげる無くなっなくなっ
絵の具えのぐばこ帽子ぼうし置いおいまま右手みぎて廻るまわる
余りあまり爪先つまさき上がりあがり登るのぼる
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そのはな
いち勘定かんじょう無論むろん勘定かんじょう切れきれほど多いおおい
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また落ちるおちる
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隣りとなりやまからおりだろう
よい天気てんき手拭てぬぐいとっ挨拶あいさつする
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すんりんかりやる
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十一じゅういち
山里やまざとおぼろ乗じじょうじそぞろ歩くあるく
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あとひたすらかみ念じねんじふで動くうごく任せるまかせる
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かくもの自己じこあるかくことかみことある
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引き受けひきうけくれるかみ持たもたついにこれ泥溝どろどぶなか棄てすて
石段いしだん登るのぼるほね折っおっ登らのぼらない
ほね折れるおれるくらいならすぐ引き返すひきかえす
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それからだん登るのぼる
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みょうからまた登るのぼる
仰いおっしゃいてん望むのぞむ
寝ぼけねぼけおくから小さいちいさいほししきり瞬きまばたきする
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かくとうとううえまで登り詰めのぼりつめ
石段いしだんうえ思い出すおもいだす
むかし鎌倉かまくら遊びあそび行っいっいわゆる五山ごさんなるものぐるぐる尋ねたずね廻っまわったしか円覚えんがくてら塔頭たっちゅうあったろうやはりこんなかぜ石段いしだんのそりのそり登っのぼっ行くいく門内もんないから法衣ほういあたまばち開いひらい坊主ぼうず
上るのぼる坊主ぼうず下るくだる
すれ違っすれちがっ坊主ぼうず鋭どいするどいこえどこなさる問うとう
ただ境内けいだい拝見はいけん答えこたえ同時どうじあし停めとめたら坊主ぼうず直ちにただちになんありませ言い捨ていいすてすたすた下りくだり行っいっ
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なるほど禅僧ぜんそう面白いおもしろい
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そのこころからうれしく感じかんじ
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ぜんいまだ知らしら
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世の中よのなかしつこい毒々しいどくどくしいこせこせそのうえずうずうしいいややつ埋っうまっいる
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浮世うきよかぜあたる面積めんせき多いおおいもっさも名誉めいよごとく心得こころえいる
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そうひとまえ御前ごぜんいくつひっいくつひっ頼みたのみこと教えるおしえる
まえ云ういうならそれ参考さんこうやらない後ろうしろほうから御前ごぜんいくつひっいくつひっ云ういう
うるさい云えいえなおなお云ういう
よせ云えいえますます云ういう
分っわかっ云っいっいくつひっひっ云ういう
そうそれ処世しょせい方針ほうしん云ういう
方針ほうしん人々ひとびと勝手かってある
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ひと邪魔じゃまなる方針ほうしん差し控えるさしひかえる礼儀れいぎ
邪魔じゃまならなけれ方針ほうしん立たたた云ういうならこっちひるもっこっち方針ほうしんするばかり
そうなったら日本にっぽんうん尽きつきだろう
こうやっ美しいうつくしいはるよるなん方針ほうしん立てたてあるいてる実際じっさい高尚こうしょう
きょう来れこれきょう来るくるもっ方針ほうしんする
きょう去れされきょう去るさるもっ方針ほうしんする
得れえれとくところ方針ほうしん立つたつ
とくなけれとくないところ方針ほうしん立つたつ
しかもだれ迷惑めいわくならない
これ真正しんせい方針ほうしんある
勘定かんじょうする人身じんしん攻撃こうげき方針ほうしんひる正当せいとう防禦ぼうぎょ方針ほうしんこうやっ観海みかいてら石段いしだん登るのぼる随縁ずいえんほう方針ほうしんある
あおぐすうはるほし一二三いちにさんとく石磴せきとう登りのぼりつくしたるおぼろひかるはるうみおびごとく見えみえ
山門さんもん入るはいる
絶句ぜっく纏めるまとめるならなくなっ
即座そくざやめする方針ほうしん立てるたてる
いし甃んたたん庫裡くり通ずるつうずる一筋ひとすじみち右側みぎがわおかつつじ生垣いけがきかきむかい墓場はかばあろう
ひだり本堂ほんどう
屋根瓦やねがわら高いたかいところ幽かかすか光るひかる
すうまんいらかすうまんつき落ちおちよう上るのぼる
どこやらはとこえしきりする
むねした住んすんいるらしい
せいひさしあたり白いしろいもの点々てんてん見えるみえる
ふん知れしれ
あめ垂れ落ちたれおちところみょうかげ一列いちれつ並んならんいる
見えみえくさ無論むろんない
感じかんじから云ういう岩佐いわさ又兵衛またべえかいおに念仏ねんぶつ念仏ねんぶつやめ踊りおどり踊っおどっいる姿すがたある
本堂ほんどうはしからはしまで一列いちれつ行儀ぎょうぎよく並んならん躍っおどっいる
そのかげまた本堂ほんどうはしからはしまで一列いちれつ行儀ぎょうぎよく並んならん躍っおどっいる
朧夜おぼろよそそのかさかね撞木しゅもく奉加帳ほうがちょう打ちすてうちすて誘いさそい合せるあわせるいなこの山寺やまでら踊りおどりだろう
近寄っちかよっ見るみる大きなおおきな覇王樹はおうじゅある
高さたかさ七八しちはちさしあろう糸瓜へちまほど青いあおい黄瓜きゅうり杓子しゃくしよう圧しおしひしゃげがらほうしたうえうえ継ぎ合せつぎあわせよう見えるみえる
あの杓子しゃくしいくつ継がつぎがったらおしまいなる分らわからない
今夜こんやうちひさし突き破っつきやぶっ屋根瓦やねがわらうえまでそう
あの杓子しゃくし出来るできるなん不意ふいどこからぴしゃり飛びつくとびつく違いちがいない
古いふるい杓子しゃくし新しいあたらしいしょう杓子しゃくし生んうんそのしょう杓子しゃくし長いながい年月としつきうちだんだん大きくおおきくなるよう思わおもわない
杓子しゃくし杓子しゃくし連続れんぞくいかに突飛とっぴある
こんな滑稽こっけいたんとあるまい
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いかなるこれふつ問わとわ庭前ていぜんかしわ樹子きこ答えこたえそうあるよしもし同様どうようもん接しせっし場合ばあいいちなく月下げっか覇王樹はおうじゅ応えるこたえるあろう
少時しょうじあきらこれ云ういうひと行文こうぶん読んよんいまだ暗誦あんしょういるある
きゅうつきてん高くたかく清くきよくやま空しくむなしく月明げつめい仰いおっしゃい星斗せいと視れみれみな光大ひかりだいたまたまひとうえあるごとしまどたけ数十すうじゅう竿さおそう摩戞こえ切々せつせつやま竹間ちくかんうめ棕森おにたてわらいじょうごとし二三子ふみこそう顧みかえりみはく動いうごい寝るねるとくあきらみな去るさるまたくちうち繰り返しくりかえし思わおもわ笑っわらっ
この覇王樹はおうじゅ場合ばあいよれはく動かしうごかし見るみるいなやま追いおい下げさげあろう
さし触れふれ見るみるいらいらゆびさす
いしいし行きいき尽くしつくしひだり折れるおれる庫裏くり出るでる
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見上げるみあげるあたまうええだある
えだうえまたえだある
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普通ふつうえだ重なるかさなるしたからそら見えみえ
はなあれなお見えみえ
木蓮もくれんえだいくら重なっかさなっえだえだほがらかすきいる
木蓮もくれん樹下じゅか立つたつひと乱すみだすほど細いほそいえだいたずら張らちょうら
はなさえ明かあきらかある
この遥かはるかなるしたから見上げみあげいちはなはっきりいち見えるみえる
そのいちどこまで簇がっむらがっどこまで咲いさいいる分らわから
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いしいしうえ立ったっこのおとなしいはな累々るいるいどこまで空裏くうりつるよう見上げみあげしばらく茫然ぼうぜん
落つるおつるはなばかりある
いちばいない
木蓮もくれんはなばかりなるそら
云ういうとく
どこやらはとやさしく鳴きなき合うあういる
庫裏くり入るはいる
庫裏くり明け放しあけはなしある
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大空おおぞらだんおおとり
寸心すんしんなん窈窕ようちょう
縹緲ひょうびょうわすれ是非ぜひ
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韶光しょうこうなお
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悠然ゆうぜんたい芬菲
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