虞美人草

11/19

十一

11
ありかん集まりあつまりひと新しきあたらしき集まるあつまる
文明ぶんめいみん劇烈げきれつなる生存せいぞんうち無聊ぶりょうかこつ
立ちたちながらさんしょくつく堪えこらえ路上ろじょう昏睡こんすいやまい憂ううれう
なま縦横じゅうおう託したくし縦横じゅうおう貪るむさぼる文明ぶんめいみんある
文明ぶんめいみんほど自己じこ活動かつどう誇るほこるものなく文明ぶんめいみんほど自己じこ沈滞ちんたい苦しむくるしむものない
文明ぶんめいひと神経しんけい髪剃かみそり削っけずっひと精神せいしん擂木鈍くにぶくする
刺激しげき麻痺まひしかも刺激しげき渇くかわくものすう尽くしつくし新らしきあたらしき博覧会はくらんかい集まるあつまる
いぬこう恋いこいひといろ
いぬひとこのてんおいもっとも鋭敏えいびん動物どうぶつある
紫衣しい云いいいほう云いいいあおえり云ういう
皆人みなひと呼び寄せるよびよせる道具どうぐ過ぎすぎ
土堤どてい走るはしる弥次馬やじうま必ずかならずいろいろはた担ぐかつぐ
担がたんが懸命けんめいかい操るあやつるものいろ担がたんがれるある
天下てんか天狗てんぐはなより著しあらわしきものない
天狗てんぐはな古えいにしえより赫奕かくえきあかある
いろあるところ千里せんり遠しとおし
すべてひといろ博覧会はくらんかい集まるあつまる
あかり集まりあつまりひと電光でんこう集まるあつまる
輝やくかがやくもの天下てんか牽くひく
金銀きんぎん瑪瑙めのう琉璃るり閻浮えんぶだんきんぞく挙げあげことごとく退屈たいくつひとみ見張らしみはらし疲れつかれたるあたまわれ跳ねはね起さおこさせるため光るひかるある
ひるたんかしする文明ぶんめいみん夜会やかいあらわなるはだたる宝石ほうせき独りひとりはば利かすきかす
金剛石こんごうせきひとこころ奪ううばうひとこころより高価こうかある
泥海どろうみ落つるおつるほしかげかげながらかわらよりせん見るみるものむね閃くひらめく
閃くひらめくかげ躍るおどるぜん男子だんしぜん女子じょしいえ空しゅうくうしゅうイルミネーションいるみねーしょん集まるあつまる
文明ぶんめい刺激しげきふくろそこ篩い寄せるふるいよせる博覧会はくらんかいなる
博覧会はくらんかいなまくらよるすな漉せこせさんたるイルミネーションいるみねーしょんなる
いやしく生きいきあら生きいきたる証拠しょうこ求めもとめためイルミネーションいるみねーしょんあっ驚かおどろきかざるべから
文明ぶんめい麻痺まひたる文明ぶんめいみんあっ驚くおどろく始めはじめ生きいきいるつく
花電車はなでんしゃかぜ截っきっ来るくる
生きいきいる証拠しょうここい積み込んつみこん山下やましたがんなべへん卸すおろす
がんなべとくむかし亡くなっなくなっ
卸さおろしさ荷物にもつ自己じこ亡くならなくならつつある名誉めいよ回復かいふくもりほうぞろぞろ行くいく
おかよる掠めかすめ本郷ほんごうから起るおこる
高きたかきだいおぼろ浮かしうかしはばじゅうまちひがしなだれる下り口おりぐち根津ねづ弥生やよい切り通しきりどおし驚ろかおどろかするものます料っりょうっ下谷したや通すとおす
踏み合うふみあう黒いくろいかげことごとく池の端いけのはたあつまる
文明ぶんめいひとほど驚ろきおどろきたがるものない
まつ高くたかくはな隠さかくさえだ隙間すきまよる照らすてらすよい重なりかさなりあめ降りふりかぜ吹くふく
始めはじめいちかた落ちおちつぎかた散るちる
つぎすううるひまただはらはら散るちる
このなか見るみるから万紅ばんこう大地だいち吹いふい吹かふかたるもの届かとどけかざるうちこずえからあと追うおう落ちおち
忙がしいいそがしい吹雪ふぶきいつ尽きつきいま残るのこるあたまあらしようやく収っおさむっ
ほしならよる護るまもるはなかげ見えみえ
同時どうじイルミネーションいるみねーしょん点いつい
あら糸子いとこ云ういう
よる世界せかいひる世界せかいより美しいうつくしいこと藤尾ふじお云ういう
うす丸くまるく曲げまげ左右さゆうから重なるかさなるきん閃くひらめくなか織り出しおりだし半月はんつきすう分からぶんから
幅広はばひろこし蔽うおおう藤尾ふじおおびいちさし隔てへだて宗近むねちかきみ甲野こうのさん立ったっいる
これ奇観きかんざっ竜宮りゅうぐう宗近むねちかきみ云ういう
糸子いとこさん驚いおどろいようです甲野こうのさん帽子ぼうしまゆ深くふかく被っかぶっ立つたつ
糸子いとこ振り返るふりかえる
よるわらいみずなか吟ずるぎんずるようものある
思うおもうところ届かとどけか知れしれ
振り返るふりかえるひところもいろよる欺くあざむく黒いくろいもの幾筋いくすじたて刻んきざんいる
驚いおどろい今度こんどあに聞き直すききなおす
貴所きしょほう糸子いとこ差し置いさしおい藤尾ふじお振り返るふりかえる
黒いくろいかみかげからさっ白いしろいかお映すうつす
ほおはし遠いとおい火光かこう受けうけほの赤いあかい
ぼくさんへんから驚ろかおどろかない宗近むねちかきみかお一面いちめん明かるいあかるいほう向けむけ云ういう
驚くおどろくうちらくあるもんおんならく多くおおく仕合せしあわせ甲野こうのさん長いながい体躯たいく真直まっすぐ立てたてまま藤尾ふじお見下しみくだし
黒いくろいよる動くうごく
あれ台湾たいわんやかた何気なんげなき糸子いとこみず横切っよこぎっゆび点すともす
あの一番いちばんみぎまえいるそうあれ一番いちばん善くよく出来できいるねえ甲野こうのさんよる見るみる甲野こうのさんすぐ但書ただしがき附け加えつけくわえ
ねえいとこうまるで竜宮りゅうぐうようだろう本当ほんとう竜宮りゅうぐう藤尾ふじおさんどう思うおもう宗近むねちかきみどこまで竜宮りゅうぐう得意とくいある
ぞくじゃありませなんあの建物たてものあなた形容けいようですハハハハはははは甲野こうのさん竜宮りゅうぐうぞく云ういう意見いけんぞく竜宮りゅうぐうじゃない形容けいよう旨くうまく中るあたるぞくなる通例つうれい中るあたるぞくなら中らあたらなけれなんなるなるでしょう藤尾ふじお横合よこあいから答えこたえ
から実際じっさい外れるはずれる甲野こうのさん云ういう
実際じっさいより高いたかいから藤尾ふじお註釈ちゅうしゃくする
する旨くうまく中っちゅうっ形容けいようぞく旨くうまく中らあたらなかっ形容けいよう藤尾ふじおさん無味むみくっ中らあたらない形容けいよう云っいっ御覧ごらん云っいっましょう兄さんあにさん知っしってるでしょう聴いきい御覧ごらんなさい藤尾ふじお鋭どいするどいかくから欽吾きんご
かく云ういう
無味むみくっ中らあたらない形容けいよう哲学てつがくある
あのよこあるなん糸子いとこ無邪気むじゃき聞くきく
せんやみ渡しわたしそらよこ切るきる屋根やねある
たて切るきるはしらある
斜めななめ切るきるいらかある
おぼろおくほし埋めうめ限りなきかぎりなきよる薄黒くうすぐろく地ならしじならしたるうえ稲妻いなずまいち引いひい虚空こくう走っはしっ
引いひいうえから落ちおち
まんじ描いえがい花火はなびごとく近くちかく廻転かいてん
最後さいご穂先ほさきぎゃく返しかえし帝座ていざ真中まなか貫けつらぬけばかり抛げなげ上げあげ
かくとうむね入りいりむねゆか連なっつらなっ不忍しのばずいけ此方こちらから見渡すみわたすむかいみぎからひだり隙間すきまなく埋めうめ大いなるおおいなる絵図面えずめん出来でき
あい含むふくむ黒塗くろぬりきん惜まおしま高蒔絵こうまきえどう描きえがきろう描きえがき廻廊かいろう描きえがききょくらん描きえがきえんとうほうはしら数々かずかず描きえがき尽しつくしなお余りあまりある是非ぜひ用いもちい切らきらため描けるえがけるうえ往きゆき戻りもどりする
縦横じゅうおうそら走るはしるせんいちてん一劃いっかく乱すみだすことなく整然せいぜんいちてん一劃いっかくうち活きつきいる
動いうごいいる
しかも明かあきらか動いうごい動くうごく限りかぎりかたち崩すくずす気色けしき見えみえ
あのよこ見えるみえるなん糸子いとこ聞くきく
あれ外国がいこくやかたちょうど正面しょうめん見えるみえるここから見るみる一番いちばん奇麗きれいあのひだりある高いたかい丸いまりい屋根やね三菱みつびしやかたあの恰好かっこ好いよいなん形容けいようする宗近むねちかきみちょっと躊躇ちゅうちょ
あの真中まなかだけ赤いあかいいもうと云ういう
かん紅玉こうぎょく嵌めはめようこと藤尾ふじお云ういう
なるほど天賞てんしょうどう広告こうこくよう宗近むねちかきみ知らしらかおぞくしまう
甲野こうのさん軽くかるく笑っわらっ仰向いあおむい
そら低いひくい
薄黒くうすぐろく大地だいち逼るせまるよる中途ちゅうと煮えにえ切らきらほし路頭ろとう迷っまよっ放下ほうかがっいる
はしら連なりつらなりいらか積むつむまんてん逆しまさかしまてん浸しひたし寝とぼけねとぼけほし射るいる
ほし熱いあつい
そら焦げるこげるよう羅馬ろーま法王ほうおうかん知れしれない甲野こうのさん視線しせん谷中やなかから上野うえのもりかけ大いなるおおいなる画いえがい
羅馬ろーま法王ほうおうかん藤尾ふじおさん羅馬ろーま法王ほうおうかんどう天賞てんしょうどう広告こうこくほう好さよさそういずれ藤尾ふじお澄ましすましいる
いずれ差支さしつかえなしとにかく女王じょおうかんじゃないねえ甲野こうのさんなん云えいえないクレオパトラくれおぱとらあんなかんかぶっいるどう御存じごぞんじ藤尾ふじお鋭どくするどく聞いきい
御前ごぜん持っもっいるほんかいあるじゃないそらよりみずほう奇麗きれい糸子いとこ突然とつぜん注意ちゅうい
対話たいわクレオパトラくれおぱとら離れるはなれる
ひる死んしんいるみずかぜ含まふくまよるかげ圧しおし付けつけられ見渡すみわたす限りかぎり平かたいらかある
動かうごかいつことから
静かしずかなるみず知るしるまい
ひゃくねんむかし掘っほっいけならひゃくねん以来いらい動かうごか五十ごじゅうねんむかしなら五十ごじゅうねん以来いらい動かうごかのみ思わおもわれる水底すいていから腐っくさっれんそろそろ青いあおい吹きかけふきかけいる
どろから生れうまれこいふなやみ忍んしのん緩やかゆるやか働かしはたらかしいる
イルミネーションいるみねーしょん高いたかいかげぎゃくていきしさし残さざんさ真赤まっかなっこの静かしずかなるみずうえ倒れ込むたおれこむ
黒いくろいみず死にしにつつぱっいろさく
どろ潜むひそむさかなひれ燃えるもえる
湿しつえる一抹いちまつきし伸しのし明かあきらか向側むかいがわ渡るわたる
行くいくみち横わるよこたわるすべてもの染めそめ尽しつくしやまざるぷつり截っきっ長いながいはし西にしからひがし懸けるかける
白いしろいいしはねたまなみ跨ぐまたぐアーチあーちすう二十にじゅうらん盛るもる擬宝珠ぎぼうしことごとくよる照らすてらす白光はっこうたまある
そらよりみずほう奇麗きれい注意ちゅうい糸子いとここえ連れつれ残るのこるさんひとことごとくみずはし聚ったかっ
一間いちけんごと高くたかくいし欄干らんかん照らすてらす電光でんこう遠きとおきこちらから行儀ぎょうぎよく一列いちれつそら懸っかかっ見えるみえる
したぞろぞろひと通るとおる
あのはしひと埋っうまっいる宗近むねちかきみ大きなおおきなこえ出しだし
小野おのさんどう先生せんせい小夜子さよこ連れつれいまこのはし通りとおりつつある
驚ろかおどろかあせる群集ぐんしゅう弁天べんてんほこら抜けぬけ圧しおし来るくる
むかいおか下りくだり圧しおし来るくる
東西南北とうざいなんぼくひと広いひろいもり広いひろいいけ周囲しゅうい捨てすてことごとく細長いほそながいはしうえ集まるあつまる
はしうえ動かうごか
真中まなか弓張ゆみはり高くたかく差し上げさしあげ巡査じゅんさ来るくるひと往くゆくひとひだりみぎ制しせいしいる
来るくるひと往くゆくひとただ揉まもま通るとおる
あし落すおとすひまない
らく踏むふむ余地よち尺寸しゃくすん見出しみだし安々やすやすかかと着けるつける心持こころもちやっと有っあっ思うおもううちもう後ろうしろからまえ押し出さおしだされる
歩くあるく思えおもえない
歩かふか無論むろん云えいえ
小夜子さよこゆめよう心細くこころぼそくなる
どう先生せんせい過去かこ人間にんげん圧し潰すおしつぶすためみな揉むもむない恐ろしおそろしがる
小野おのさんだけ比較的ひかくてき得意とくいある
多勢おおぜい立ったっ多数たすうより優れすぐれたり自覚じかくあるもの身動きみうごき出来できすら得意とくいある
博覧会はくらんかい当世とうせいある
イルミネーションいるみねーしょんもっとも当世とうせいある
驚ろかおどろかここあつまるものみな当世とうせいまとおとこおんなある
ただあっ云っいっ当世とうせいまと生存せいぞん自覚じかく強くつよくするためある
たがいたがいかおたがい当世とうせい黙契もっけい自己じこ勢力せいりょく多数たすう認識にんしきたる後家ごけ帰っかえっ安眠あんみんするためある
小野おのさんこの多数たすう当世とうせいうちもっとも当世とうせいものある
得意とくい無理むりない
得意とくい小野おのさん同時どうじ失意しついある
自分じぶん一人ひとりこそだれ当世とうせい見えるみえる
申し分もうしぶんあるはずない
しかし時代じだい後れおくれ荷物にもつ丁寧ていねい二人ふたりまで背負っせおっはば利かりか過去かこどう一体いったい当世とうせいからられるただられるない見咎めみとがめられる同然どうぜんある
芝居しばい行っいっ自分じぶんいる羽織はおりもんおお時代じだい時代じだい後れおくれそればかりなっ見物けんぶついっこう入らはいらものさえある
小野おのさん肩身かたみ狭いせまい
ひとなみ許すゆるす限りかぎり早くはやく歩くあるく
阿爺あや大丈夫だいじょうぶあとから呼ぶよぶ
ああ大丈夫だいじょうぶ知らしらひと挟んはさんままいちのき置いおい返事へんじある
なん危なくあぶなくってなに自然しぜん押しおし行けいけ世話せわない挟まっはさまっひとやり過ごしやりすごし苦しいくるしいところむすめいっしょなる
押さおされるばかりちっとも押せおせないむすめ落ちつかおちつかながら薄いうすい片頬かたほおわらい見せるみせる
押さおさなくっいいから押さおされるだけ押さおされる云ういううち二人ふたりまえ出るでる
巡査じゅんさ提灯ちょうちんどう先生せんせい黒いくろい帽子ぼうし掠めかすめ動いうごい
小野おのどうあすこ眼元めもと指すさす
出せだせひとかた遮ぎらさえぎられる
どこどう先生せんせいあし揃えるそろえるひまなくそのまま日和下駄ひよりげた前歯まえば傾けかたむけのべする
先生せんせいこし中心ちゅうしん失いかけうしないかけところ後ろうしろから早いはやい文明ぶんめいみん押しおしかかる
先生せんせいのめっ
危うくあやうく倒れるたおれるところまえ立つたつ文明ぶんめいみん背中せなかようやく喰いくい留めるとめる
文明ぶんめいみんどこまでまえたがる代りかわり背中せなかひと援けるたすけること拒まこばま親切しんせつ人間にんげんある
文明ぶんめいなみ自からみずから動いうごいらいないおや弁天べんてんどう近くちかく押し出しおしだし来るくる
長いながいはし切れきれ渡るわたるひとあしつち着くつくいななみきゅう左右さゆう散っちっ黒いくろいあたま勝手かってほう崩れくずれ出すだす
二人ふたりようやくむね広くひろくなっよう心持こころもちなる
暗いくらいそこあい含むふくむ逝くいくはるよる透かしすかし見るみるはな見えるみえる
あめかぜ散りちり後れおくれはちじゅう咲くさく遅きおそきこうよる懸けかけはながんひとあかりしたから朗かほがらか照らしてらしいる
おぼろ薄紅うすべに螺鈿らでん鐫るえる
鐫るえる云ういうかた過るすぎる
浮くうく云えいえそら離れるはなれる
このよいこのはなどう形容けいようたらよかろう考えかんがえながら小野おのさん二人ふたり待ち合せまちあわせいる
どう怖ろしいおそろしいひと追いついおいついどう先生せんせい云ういう
怖ろしいおそろしい本当ほんとう怖ろしいおそろしい意味いみかつ普通ふつう怖ろしいおそろしい意味いみある
随分ずいぶんます早くはやくいえ帰りかえりたくなっどう怖しいおそろしいひとどこからこんな来るくる 小野おのさんにやにや笑っわらっ
蜘蛛くもよう暗いくらいもり蔽うおおう至るいたる文明ぶんめいみんみな自分じぶん同類どうるいある
さすが東京とうきょうまさかこんなじゃ無かろうなかろう思っおもっ怖しいおそろしいところ すういきおいある
いきおい生むうむところ怖しいおそろしい
いちつぼ足らあしら腐れくされみず御玉杓子おたましゃくしうじょうじょ湧くわくところ怖しいおそろしい
いわんや高等こうとうなる文明ぶんめい御玉杓子おたましゃくしなくひり出すひりだす東京とうきょう怖しいおそろしい無論むろんことある
小野おのさんまたにやにや笑っわらっ
小夜さよどうあぶないもう少しすこし紛れるまぎれるところだっ京都きょうとじゃこんなことないあのはし通るとおるどうしよう思いおもいましって怖くこわくってもう大丈夫だいじょうぶなん顔色かおいろ悪いわるいようくたびれ少しすこし心持こころもち悪いわるい 歩きあるきつけない無理むり歩いあるいせいそれこの人出ひとでじゃあどっちょいと休もうやすもう小野おのどっ休むやすむところあるだろう小夜さよ心持こころもちよくないそうからそうですそこ出るでるたくさん茶屋ちゃやありますから小野おのさんまたさき立ったっ行くいく
運命うんめい丸いまりいいけ作るつくる
いけ回るまわるものどこ落ち合わおちあわなら
落ち合っおちあっ知らしらかお行くいくものみゆきある
ひとうみ湧き返るわきかえる薄黒いうすぐろい倫敦ろんどん朝な夕なあさなゆうな回りまわり合わあわ心掛けるこころがける甲斐かいなくさらあしぼう尋ねたずねあぐん当人とうにんただいちじゅうかべ遮らさえぎら隣りとなりいえ煤けすすけそら眺めながめいる
それ逢えあえ一生いっしょう逢えあえほね舎利しゃりなっはかくさ生えるはえるまで逢うあうこと出来でき知れしれ書いかいひとある
運命うんめいいちじゅうかべ思うおもうひとおわりふる隔てるへだてるとも丸いまりいいけ思わおもわひとはたと行き合わせるいきあわせる
へんものたがいいけ周囲しゅうい回りまわりながら近寄っちかよっ来るくる
不可思議ふかしぎいとやみよるさえ縫うぬう
どうだい女連おんなれんだいぶ疲れつかれたろうここちゃ飲むのむ宗近むねちかきみ云ういう
女連おんなれんとにかくぼくほう疲れつかれきみよりいとこうほう丈夫じょうぶいとこうどうまだ歩けるあるけるまだ歩けるあるけるまだ歩けるあるける そりゃえらいじゃちゃ廃しはいしする欽吾きんごさん休みやすみたいおっしゃるじゃありませハハハハははははなかなか旨いうまいこと云ういう甲野こうのさんいとこうきみため休んやすんやるありがたい甲野こうのさんうすわらい藤尾ふじお休んやすんくれるだろう同じおなじ調子ちょうしつけ加えるつけくわえる
頼みたのみなら簡明かんめいこたえある
どうせおんな敵わかなわない甲野こうのさん断案だんあん下しおろし
いけみず差し掛けさしかけ洋風ようふう作り上げつくりあげかり普請ふしん入口いりぐち跨ぐまたぐ小いちいさいたく椅子いす添えそえここかしこ併べならべ大広間おおひろまさんひとよんひとずつぐんおのおのくちよう弁じべんじいる
どこせきとろう四五しご十人じゅうにん一座いちざずっと見廻しみまわし宗近むねちかきみ並んならんみぎ立ったっいる甲野こうのさんたもとぐい引いひい
あと藤尾ふじおすぐ思うおもう
しかし仰山ぎょうさん何事なにごと聞くきく不見識ふけんしきある
甲野こうのさん別段べつだん相図あいず返しかえし様子ようすなくあすこ空いむなしいいるずんずんおく這入っはいっ行くいく
あと跟けつけながら藤尾ふじお大きなおおきな部屋へやすみからすみまで残りのこりなくはらなか畳み込むたたみこむ
糸子いとこただした通るとおる
おいつい宗近むねちかきみこしまず椅子いす落ちおち
うん云ういう簡潔かんけつ返事へんじある
藤尾ふじおさん小野おのいる後ろうしろ御覧ごらん宗近むねちかきみまた云ういう
知っしっます云っいっなりくび少しすこし動かうごかなかっ
黒いくろい怪しいあやしいあきら帯びおびほおいろ電気灯でんきとうもと少しすこしねつ過ぎるすぎる
どこ何気なんげなき糸子いとこ優しいやさしいかた斜めななめ捩じ向けねじむけ
入口いりぐちひだり行きいき尽くしつくしれつたく壁際かべぎわ近くちかく囲んかこん小野おのさん連中れんちゅうせき占めしめいる
こし卸しおろしさんひと突き当りつきあたり右側みぎがわまど控えひかえじん取るとる
かた動かしうごかし糸子いとこ広いひろい部屋へやところ択ばえらば散らついちらついいる群衆ぐんしゅうはしからはし貫ぬいつらぬい遥かはるか隔たっへだたっ小野おのさん横顔よこがお落ちおち
小夜子さよこ真向まっこう見えるみえる
どう先生せんせい背中せなかもんばかりある
はるよる淋しくさびしくこう白いしろいいとあごした抜くぬくうくままひとまままた取るとるねん積るつもるまま捨てすて吹かふかるるうれいひげ小夜子さよこほう向いむかいいる
あられんある糸子いとこくびもと返すかえす
返すかえすときまえ坐っすわっいる甲野こうのさん見合せみあわせ
甲野こうのさん何になんに云わいわない
灰皿はいざらうえたて挟んはさん燐寸まっちばこ横側よこがわしゅっ擦っすっ
藤尾ふじおくち結んむすんままある
小野おのさん背中せなか合せあわせままわかれるつもり知れしれない
どう別嬪べっぴんだろう宗近むねちかきみ糸子いとこ調ちょうたわむれかける
俯目ふしめたくぬの眺めながめ藤尾ふじお見えみえ濃いこいまゆだけぴくり動いうごい
糸子いとこつか宗近むねちかきみ平気へいきある甲野こうのさん超然ちょうぜんいる
うつくしいほう糸子いとこ藤尾ふじお見るみる
藤尾ふじお上げあげない
ええ素気なくそっけなく云い放ついいはなつ
極めてきわめて低いひくいこえある
こたえ与うるあたうるあたいこと聞かきか相手あいて合槌あいづち打つうつことくずざるおんなこのほう用いるもちいる
おんな肯定こうてい否定ひてい調子ちょうし寓するぐうするれいうで有しゆうしいる
甲野こうのさん驚いおどろいうんちとみょう巻煙草まきたばこはいさらなかはたき落すはたきおとす
からぼく云っいっなん云っいっなん云っいったって忘れわすれ宗近むねちかきみ下向げこうなっ燐寸まっち擦るする
刹那せつな藤尾ふじおひとみ宗近むねちかきみがく
宗近むねちかきみ知らしらない
えた巻煙草まきたばこ移しうつしかお真向まっこう起しおこし稲妻いなずますでに消えきえ
あらみょう二人ふたりなん云っいっいらっしゃる糸子いとこ聞くきく
ハハハハはははは面白いおもしろいことあるいとこう云いいい掛けかけ紅茶こうちゃ西洋せいよう菓子かし来るくる
いやあ亡国ぼうこく菓子かし亡国ぼうこく菓子かしなん甲野こうのさん茶碗ちゃわん引き寄せるひきよせる
亡国ぼうこく菓子かしハハハハははははいとこう知っしってるだろう亡国ぼうこく菓子かし由緒ゆいしょ云いいいながら角砂糖かくさとう茶碗ちゃわんなか抛り込むほうりこむ
かにようあわ幽かかすかおと立てたて浮き上がるうきあがる
そんなこと知らしらない糸子いとこさじぐるぐる攪き廻しかきまわしいる
そら阿爺あや云っいっじゃない書生しょせい西洋せいよう菓子かしなんぞ食うくうようじゃ日本にっぽん駄目だめってホホホホほほほほそんなことおっしゃるもんです云わいわない 御前ごぜんよっぽどものさとしわるいそらこの甲野こうのさんなん晩飯ばんめし食っしょくっそう云っいっじゃないそうじゃない書生しょせいくせ西洋せいよう菓子かしなんぞ食うくうのらくらものっておっしゃっでしょうああそう亡国ぼうこく菓子かしじゃなかっとにかく阿爺あや西洋せいよう菓子かしいやかき羊羹ようかん味噌みそ松風しょうふうみょうものばかり珍重ちんちょうたがる藤尾ふじおさんようハイカラはいからそば持っもっ行くいくすぐ軽蔑けいべつしまうそう阿爺あや悪口わるぐちおっしゃらなくっいい兄さんあにさんってもう書生しょせいじゃないから西洋せいよう菓子かし食べたべたって大丈夫だいじょうぶですもう叱らしかられる気遣きづかいないそれじゃいちやるいとこういち上りのぼりどうだい藤尾ふじおさんいちしかしなん阿爺あやようひとこれから日本にっぽんだんだん少なくすくなくなる惜しいおしいもんチョコレートちょこれーと塗っぬったまごとうくちいっぱい頬張るほおばる
ホホホホほほほほ一人ひとり饒舌にょうぜつって藤尾ふじおほう見るみる
藤尾ふじお応じおうじない
藤尾ふじおなん食わくわない甲野こうのさん茶碗ちゃわんくち付けつけながら聞くきく
たくさん云っいっぎりある
甲野こうのさん静かしずか茶碗ちゃわん卸しおろしくび心持こころもち藤尾ふじおほう向け直しむけなおし
藤尾ふじお思いおもいながらまどかまど通しとおし映るうつるイルミネーションいるみねーしょん片割かたわれ専念せんねんいる
あにくびしだい位地いち帰るかえる
よんひとせき立ったっ藤尾ふじお傍目はため触らさわらただ正面しょうめんなり女王じょおう人形にんぎょうあゆみ移すうつすごとく昂然こうぜん入口いりぐちまで出るでる
もう小野おの帰っかえっ藤尾ふじおさん宗近むねちかきみ洒落しゃれおんなかた敲くたたく
藤尾ふじおむね紅茶こうちゃ焼けるやける
驚ろくおどろくうちらくあるおんな仕合せしあわせもの再びふたたびひとこみなん思っおもっ甲野こうのさんまた前言ぜんげん繰り返しくりかえし
驚くおどろくうちらくある
おんな仕合せしあわせもの
いえ帰っかえっ寝床ねどこ這入るはいるまで藤尾ふじおみみこのあざけりすずごとく鳴っなっ
11/19