明暗

11/19

その一冊を抽いた。岡本の所蔵にかかるだけあるなと首肯ずかせるような趣がそこここに見えた。不幸にして彼は諧謔を解する事を知らなかった。中に書いてある活字の意味は、頭に通じても胸にはそれほど応えなかった。頭にさえ呑み込めないのも続々出て来た。責任のない彼は、自分に手頃なのを見つけようとして、どしどし飛ばして行った。すると偶然下のようなのが彼の眼に触れた。

11
むすめちち青年せいねん向っむかっあなたわたくしむすめ愛しあいしいでです訊いきいたら青年せいねん愛するあいする愛さあいさないっていうだんじゃありませお嬢さんおじょうさんためなら死のうしのうまで思っおもっいるですあの懐かしいなつかしい優しいやさしい遣いつかいただ一度いちどいただくことできるならぼくもうそれだけ死ぬしぬですすぐあの二百にひゃくさしあろういうがけうえからいわうえ落ちおちめちゃくちゃだらけ塊りかたまりなっ御覧ごらん入れいれます答えこたえむすめちちくびとうってじつ云ういうわたくし少しすこしうそ吐くはく性分しょうぶんわたくしいえよう少人数しょうにんずう家族かぞくうそ二人ふたりできる少しすこし考えものかんがえものですから答えこたえ うそいう言葉ことばいつもより皮肉ひにく津田つだ苦笑くしょう
かれはらなかうそ自分じぶんおとこあっ
同時どうじ他人たにんうそ根本的こんぽんてき認定にんていするおとこあっ
それ少しすこし厭世えんせいまとならないおとこあっ
むしろその反対はんたい生活せいかつすることできるためうそ必要ひつようなるぐらい考えるかんがえるおとこあっ
かれ今までいままでこういう漠然ばくぜん人世じんせいかんした生きいきながら自分じぶんそれ知らしらなかっ
かれただ行っいっある
から少しすこし深くふかく入り込むはいりこむ自分じぶん自分じぶん立場たちば分らわからなくなるだけあっ
あい虚偽きょぎ 自分じぶん読んよん一口ひとくちはなしからこの暗示あんじかれもの関係かんけいどう説明せつめいいい迷っまよっ
かれ自分じぶん大事だいじある問題もんだい所有者しょゆうしゃあっ
内心ないしん要求ようきゅううえ是非ぜひともそれ解決かいけつなけれならないかれ実験じっけん機会きかいかれ与えあたえられない限りかぎりあたまなかいたずら考えかんがえなけれならなかっ
哲学者てつがくしゃないかれ自身じしん今までいままで行っいっ人世じんせいかんすら組織そしき正しいただしい形式けいしきしたわがまえ並べならべ見るみることできなかっある
百十六ひゃくじゅうろく
津田つだ纏まらまとまらないことそれからそれ考えかんがえ
そのうちいつ午過ぎひるすぎなっしまっ
かれあたま疲れつかれ
もういちこと長くながく思いおもい続けるつづける勇気ゆうきなくなっ
しかしあき云いいいながら独りひとりいるあまりなが過ぎすぎ
かれ退屈たいくつ感じかんじ出しだし
そうまたのべほう想いおもい馳せはせ
彼女かのじょ姿すがた今日きょう自分じぶんまえ予期よきかれ横着おうちゃくあっ
今までいままで彼女かのじょ手前てまえ憚からはばからなけれならないようことばかりさんざん考えかんがえ抜いぬいあげくそれいやなるすぐのべもうそうもの思っおもっ平気へいき
自然しぜんあたまなか湧いわい出るでるもの対したいし責任せきにんもてないいう弁解べんかいさえそのかれなかっ
かれのべ不可解ふかかいてんある代りかわり自分じぶんのべ知らしらない事実じじつむねなか納めおさめいるぐらい料簡りょうけん遠くとおくほうはたらけ知れしれないそれさえいざならなけれ判然はんぜん言葉ことばなっかれあたま現われあらわれ来るくるはずなかっ
のべなかなかなかっ
のべ以上いじょう待たまたれる吉川よしかわ夫人ふじん固よりもとより姿すがた見せみせなかっ
津田つだ面白くおもしろくなかっ
先刻せんこくから近くちかくだれやっいるかれ最ももっともいやうたいこえ不快ふかいかれみみ刺戟しげき
かれ記憶きおくある謡曲ようきょく指南しなんいう細長いほそながい看板かんばんきゅう思い出さおもいださ
それ洗濯せんたく筋向うすじむこう当るあたるかいけんいえあっ
かい稽古けいこする座敷ざしきなっいる見えみえ距離きょりわりこえほうむやみ大きくおおきく響いひびい
ほか勝手にかってにやっいるもの止めとめさせる権利けんりどこ見出しみだしとくないかれかれ不平ふへいどうすることできなかっ
かれただ早くはやく退院たいいんたい思うおもうだけあっ
やなぎあとある赤いあかい煉瓦れんが造りつくりくら山形やまがたしたいち引いひい屋号やごうようもん付いついその左右さゆうなんため解らわからない大きなおおきなおりくぎものかべなかから突き出しつきだしいるところ津田つだ見るみるともないともかたつかないぼんやり眺めながめ遠慮えんりょない足音あしおときゅう聞こえきこえだれ階子段はしごだんどしどし上っのぼっ
津田つだおや思っおもっ
この足音あしおと調子ちょうしからそのぬしもうななぶん通りとおりかれあたまなか推定すいてい
かれ予覚よかくすぐ事実じじつなっ
かれむろ入口いりぐち転ずるてんずるほとんどおッおっ小林こばやし貰いもらい立てたて外套がいとうままつかつか入っはいっ
どう かれすぐ胡坐こざかい
津田つだむしろ苦しくるしそう笑いわらい挨拶あいさつ代りかわり
なんいう心持こころもちかお見るみるとももう起っおこっ
これかれ外套がいとうそで津田つだ突きつけるつきつけるよう見せみせ
ありがとうお蔭おかげこのふゆ生きいき行かいかれる 小林こばやしのべまえ云っいっ同じおなじ言葉ことば津田つだまえ繰り返しくりかえし
しかし津田つだのべからそれ聴かさきかさなかっべつ皮肉ひにく思わおもわなかっ
奥さんおくさんたろう 小林こばやしまたこう訊いきい
来るくる当り前あたりまえじゃないなん云っいったろう 津田つだうん答えようこたえよういいや答えようこたえよう思っおもっ少しすこし躊躇ちゅうちょ
かれ小林こばやしどんなことのべ話しはなしそれ知りしりたかっ
それかれくちからここ繰り返さくりかえささえすれ自分じぶんこたえうんだろういいえだろう同じおなじことあっ
しかしどっち成功せいこうするそことっささいきめるわけ行かいかなかっ
ところその態度たいど意外いがい意味いみなっ小林こばやし反響はんきょう
奥さんおくさん怒っどっきっとそんなことだろうぼく思っおもっ 容易ようい手がかりてがかりとく津田つだすぐそれ縋りついすがりつい
きみあんまり苛めるいじめるからいや苛めいじめないただ少しすこし調ちょうたわむれ過ぎすぎ可哀想かわいそう泣きゃなきゃなかっ 津田つだ少しすこし驚ろいおどろい
泣かなきかせるようこと云っいっなにどうせぼく云ういうことから出鱈目でたらめつまり奥さんおくさん岡本おかもとさんたい上流じょうりゅう家庭かてい育っそだっ天下てんかぼくよう愚劣ぐれつ人間にんげん存在そんざいいることまだ知らしらないそれちょっとことまでするだろうあんな馬鹿ばか取り合うとりあうきみ平生へいぜいから教えおしえおきさえすれそれいいそう教えおしえいることいる津田つだ負けまけやり返しやりかえし
小林こばやしハハはは笑っわらっ
まだ少しすこし訓練くんれん足りたりないじゃない 津田つだ言葉ことば改めあらため
しかしきみいったいどんなこと云っいっ彼奴きゃつ調ちょうたわむれそりゃもうのべさんから聴いきいたろういいや聴かきかない 二人ふたりかお見合せみあわせ
互いたがいむね忖度そんたくしようする試みこころみ同時どうじそこ現われあらわれ
百十七ひゃくじゅうなな
津田つだ小林こばやし本音ほんね吹かふかせようするところある特別とくべつ意味いみあっ
かれのべ性質せいしつその著るきるしい断面だんめんおいよく承知しょうち
お秀おひで正反対せいはんたい彼女かのじょ飽くまであくまで素直すなお飽くまであくまで閑雅かんが態度たいど絶えたえかれまえ示すしめすこと忘れわすれないともどうまたかれ自由じゆうならないてん同様どうよう程度ていどちゃんともっ
彼女かのじょさいいちあっ
けれどその応用おうよう両面りょうめん亘っわたっ
これおっと知らしらならない思うおもうことまた隠しかくしおくほう便宜べんぎきめことそういう場合ばあいなる彼女かのじょ全くまったく津田つだあまる細君さいくんあっ
彼女かのじょ柔順じゅうじゅんあれあるほど津田つだ彼女かのじょから何になんに掘り出すほりだすことできなかっ
彼女かのじょ小林こばやし昨日きのうどんなやりとり起っおこっそれお秀おひで騒ぎさわぎ委細いさい訊くきくひまないうち時間じかん経っきょうっしまっから事実じじつやむないもしそういう故障こしょうない津田つだから詳しいくわしいありのまま問わとわたらのべおいそれとかれ希望きぼう通りとおり綿密めんみつ返事へんじ惜まおしまかれ要求ようきゅう満足まんぞくたろう考えるかんがえるそこ大きなおおきな疑問ぎもんあっ
のべ平生へいぜいから推しおし津田つだむしろごまかされるない思っおもっ
ことかれもし思っおもっいるてん小林こばやし遠慮えんりょなくしゃべっすれのべなおことそれ聴かきかないふり黙っだまっおっとまえ通り抜けるとおりぬけるおんならしく見えみえ
少くすくなくとも津田つだ観察かんさつ彼女かのじょそれだけ余裕よゆう充分じゅうぶんあっ
すでにのべほうたいらめなけれならないする津田つだ自分じぶん必要ひつよう知識ちしき出所しゅっしょ小林こばやし向っむかっ求めるもとめるよりほか仕方しかたなかっ
小林こばやしなんそこ承知しょうちいるらしかっ
なに何になんに云やいやないうそ思うおもうならもう一遍いちぺんお延おのべさん訊いきいまえもっともぼく帰りがけかえりがけ悪いわるい思っおもっからわびまっじつ云ういうなんわびまっぼく自身じしん解らわからないくらいもの かれこう云っいっ嘯いうそぶい
それからいきなり延べのべ津田つだ枕元まくらもとある読みかけよみかけ書物しょもつ取り上げとりあげいちぶんばかりそれ黙読もくどく
こんなもの読むよむかれさも軽蔑けいべつ口調くちょう津田つだ訊いきい
かれぞんざいぺーじ繰りくりながら終りおわりほうからぎゃく始めはじめ
そうそこ岡本おかもという小さいちいさい見留みとめしるし見出しみだしかれふん云っいっ
お延おのべさん持っもっ道理どうりみょうほん思っおもっきみ岡本おかもとさん金持かねもちだろうそんなこと知らしらない知らしらないはずあるまいってのべさんさとじゃないぼく岡本おかもと財産ざいさん調べしらべうえ結婚けっこんなんかじゃないそう この単純たんじゅんそうへん津田つだあたま響いひびい
岡本おかもと財産ざいさん調べしらべないきみ結婚けっこんするものいう意味いみさえ取れとれ
岡本おかもとのべ叔父おじきみ知らしらないさとなんありゃないそう 小林こばやしまた同じおなじ言葉ことば繰り返しくりかえし
津田つだなお不愉快ふゆかいなっ
そんな岡本おかもと財産ざいさん知りしりたけれ調べしらべやろう 小林こばやしえへへ云っいっ
貧乏びんぼうするほか財産ざいさんまでなっしようない 津田つだ取り合わとりあわなかっ
それその問題もんだい切り上げるきりあげる思っおもっいる小林こばやしすぐもと帰っかえっ
しかしいくらぐらいあるだろう本当ほんとうところ こう云ういう態度たいどまさしくかれ特色とくしょくあっ
そういつよう解釈かいしゃくすることでき
あたまから向うむこう馬鹿ばか認定にんていしまえそれまであるとも一度いちどこっち馬鹿ばかいる思い出すおもいだすまた際限さいげんなく馬鹿ばかいるわけなっ
かれ対するたいする津田つだじつところ半信はんしん半疑はんぎ真中まなか立ったっ
からそこ幾分いくぶん自分じぶん弱点じゃくてん潜在せんざいする場合ばあい馬鹿ばかれるほう解釈かいしゃくけいむかざるとくなかっ
ただ相手あいてつけあがらない用心ようじんするよりほか仕方しかたなかっかれただ微笑びしょう
少しすこし借りかりやろう借りるかりるいや貰うもらうなら貰っもらっいいいや貰うもらう御免ごめんどうせくれる気遣きづかいないから仕方しかたなけれまあ取るとる小林こばやしはは笑っわらっ
いち朝鮮ちょうせん行くいくまえ面白いおもしろい秘密ひみつ提供ていきょう岡本おかもとさんから少しすこし取っとっ行くいく 津田つだすぐはなしその朝鮮ちょうせん持っもっ行っいっ
いつ立つたつまだしっかり判らわからないしかし立つたつこと立つたつ立つたつこと立つたつきみ催促さいそくなくっ立つたつ来れこれちゃんと立つたつぼく催促さいそくするじゃない時間じかんあったらきみため送別会そうべつかい開いひらいやろういう 今日きょう小林こばやしから充分じゅうぶんこと聴けきけなかったらその送別会そうべつかい利用りようやろう思いついおもいつい津田つだこう云っいっ予備よびだい機会きかい暗にあんに作り上げつくりあげ
百十八ひゃくじゅうはち
故意こい偶然ぐうぜん津田つだ持っもっ行こういこうする方面ほうめんなかなか持っもっ行かいかない小林こばやし対したいしこの注意ちゅういむしろ必要ひつよう知れしれなかっ
かれいつまで津田つだもん応ずるおうずるようまた応じおうじないよう態度たいど取っとっ
そうしつこく自分自身じぶんじしん話題わだいばかり纏綿てんめんわっ
それまた津田つだ訊こうきこうすること間接かんせつある深いぶかい関係かんけいある津田つだ蒼蠅さばえくもありじれったくあっ
なんなく遠廻しとおまわしいた振らふられるよう
君吉きみきちかわ岡本おかもと親類しんるい小林こばやし云いいい出しだし
津田つだこの質問しつもん無邪気むじゃき思えおもえなかっ
親類しんるいじゃないただ友達ともだちいつきみ訊いきいそう云っいっ話しはなしじゃないそうあんまりぼく関係かんけい遠いとおいひととおることもんからつい忘れわすれちまっしかしかれ友達ともだちただ友達ともだちじゃあるまいなん云っいってる 津田つだついその後そのあと馬鹿ばか野郎やろう付け足しつけたしたかっ
いやよほど親友しんゆうだろういう意味いみそんな怒らおこらなくっよかろう 吉川よしかわ岡本おかもと小林こばやし想像そうぞうする通りとおり間柄あいだがらなかっ
単なるたんなる事実じじつただそれだけあっ
しかしそのうら津田つだのべ貼りつけはりつけ裏表うらおもて意味いみ同時どうじ眺めるながめること自由じゆうでき
きみ仕合せしあわせおとこ小林こばやし云っいっ
お延おのべさんさえ大事だいじいれないからから大事だいじいるきみ注意ちゅういなくったってそのくらいこと心得こころえいるそう 小林こばやしまたそういう言葉ことば使っつかっ
この真面目くさっまじめくさっそう重なるかさなるたび津田つだかれから脅やかさおびやかされるよう
しかしきみぼくなど違っちがっ聡明そうめいからいいほかみんなきみのべさん降参こうさん切っきってるよう思っおもってるほかだれこと先生せんせい奥さんおくさん 藤井ふじい叔父おじ叔母おばからそう思わおもわいること津田つだほぼ見当けんとうつい
降参こうさん切っきっいるからそう見えみえって仕方しかたないそうしかしぼくよう正直しょうじきものとてもきみ真似まねできないきみやッぱりやっぱりえらいおとこきみ正直しょうじきぼく偽物にせものその偽物にせものまた偉くえらくって正直しょうじきもの馬鹿ばかきみいつまたそんな哲学てつがく発明はつめい哲学てつがくよほどまえから発明はつめいいる今度こんど改めてあらためてそれ発表はっぴょうしよう云ういう朝鮮ちょうせん行くいくつい 津田つだあたまみょう暗示あんじ閃めかさひらめかさ
きみ旅費りょひもうでき旅費りょひどうできるつもりしゃほう出しだしくれることきまっいいもう先生せんせいから借りるかりることしまっそうそりゃ好いよい具合ぐあいちっとも好いよい具合ぐあいじゃないぼくこれ先生せんせい世話せわなる気の毒きのどくたまらない こういうかれ平気へいき自分じぶんいもうときんさん藤井ふじい片づけかたづけ貰うもらうおとこあっ
いくらぼくはじ知らしらこの上金じょうきんこと先生せんせい迷惑めいわくかけすまないから 津田つだなん答えこたえなかっ
小林こばやし無邪気むじゃき相談そうだんするよう調子ちょうし云っいっ
きみどこ強奪ごうだつところないまあない云い放っいいはなっ津田つだわざとそっぽ向いむかい
ないどこありそうもんない近頃ちかごろ不景気ふけいきからきみどう世間せけんとにかくきみだけいつも景気けいき好さよさそうじゃない馬鹿ばか云ういう 岡本おかもとから貰っもらっ小切手こぎってお秀おひで置いおい行っいっ紙包かみづつみみんなのべ渡しわたししまっあとかれ財布さいふそら同じおなじことあっ
よしそれ手元てもとあっところかれこの場合ばあい小林こばやしため金銭きんせんうえ犠牲ぎせい払うはらう起らおこらなかっ
だい一事いちじそこまで切迫せっぱくない限りかぎりかれ相談そうだん応ずるおうずる必要ひつよう毫もごうも認めみとめなかっ
不思議ふしぎ小林こばやしほうそれ以上いじょう津田つだ押さおさなかっ
その代りかわり突然とつぜんみょうところはなし切り出しきりだしかれ驚ろかしおどろかし
そのあさ藤井ふじい行っいっかれそこれいするよう昼飯ちゅうはん馳走ちそうなっ長いながい時間じかん原稿げんこう整理せいり過ごしすごしいるうち玄関げんかん格子こうし開いひらいひょい自分じぶん取次とりつぎ
そうそこ偶然ぐうぜんお秀おひで姿すがた見出しみだしある
小林こばやしはなしそこまで聴いきい津田つだ思わおもわはらなか畜生ちくしょう先廻りさきまわり叫んさけん
しかしただそれだけすまなかっ
小林こばやしあたままだ津田つだ驚ろかおどろかせる材料ざいりょう残っのこっ
百十九ひゃくじゅうきゅう
しかしかれ驚ろかしおどろかしほうまたかれ一流いちりゅう順序じゅんじょあっ
かれ一番いちばん始めはじめこんなこと云っいっ津田つだ調ちょうたわむれ
兄妹きょうだい喧嘩けんかって云ういうじゃない先生せんせい奥さんおくさんお秀おひでさんしゃべりつけられ弱っよわっきみまたそばそれ聴いきい 小林こばやし苦笑くしょうながらあたま掻いかい
なに聴こうきこう思っおもっ聴いきいわけないまあ天然てんねん自然しぜんみみ入っはいっようもの何しろなにしろしゃべるひとお秀おひでさんしゃべらせるひと先生せんせいから お秀おひでどこ片意地かたいじ一本調子いちぽんちょうしおもむきあっ
それ一種いっしゅ刺戟しげき加わるくわわる平生へいぜい落ちつきおちつき全くまったく無くなっなくなっ不断ふだん打っうっ変っかわっ猛烈もうれつひょっくり出現しゅつげんせるところ津田つだまるで違っちがっ特色とくしょくあっ
叔父おじまた叔父おじなん構わかまわそこそこまで突きとめつきとめなけれ承知しょうちできないおとこあっ
単にたんに言葉ことばうえだけいいから前後ぜんご一貫いっかんぞくいう辻褄つじつま合うあう最後さいごまで行きいきたいいうこういう場合ばあい相手あいて対するたいするかれ態度たいどあっ
ふでさき思想しそううえ問題もんだい始終しじゅう取りとりこきかいつけいるくせ活字かつじ離れはなれかれ日常生活にちじょうせいかつ憑りうつり移っうつっしまっ結果けっかそこよく現われあらわれ
かれ相手あいていくらくち利かりか
その代りかわりまたいくら質問しつもんかけ
それある程度ていどまで行くいく質問しつもんいう性質せいしつ離れはなれ詰問きつもん変化へんかすることさえしばしばあっ
津田つだこころなかこの叔父おじいもうと対坐たいざ様子ようす想像そうぞう
ことよるそこまたいち波瀾はらん起しおこしあるまいいうさえ
しかし小林こばやし対するたいする手前てまえある上部じょうぶわざと高くたかく
おおかためちゃくちゃぼく悪口わるぐち云っいっだろう 小林こばやし挨拶あいさつただ高笑いたかわらいあとこんなこと云っいっ
きみ似合わにあわないお秀おひでさん喧嘩けんかするなんてぼくから彼奴きゃつってほりまえならもっと遠慮えんりょすらなるほどそう世間せけんじゃよく夫婦ふうふ喧嘩けんかっていう夫婦ふうふ喧嘩けんかより兄妹きょうだい喧嘩けんかほう普通ふつうものぼくまだ女房にょうぼう持っもっ経験けいけんないからそっちほう消息しょうそくまるで解らわからないこれいもうとあるから兄妹きょうだいあじならよく心得こころえいるつもりきみなんぼくようあにいもうと喧嘩けんかなんかさとしまだないそりゃいもうと次第しだいけれどそこまたあに次第しだいだろういくらあにって少しすこしはら立つたつ場合ばあいある 小林こばやしにやにや笑っわらっ
いくらきみっていまお秀おひでさん怒らおこらせる得策とくさく思っおもっまいそりゃ当り前あたりまえ好んこのんだれ喧嘩けんかなんかするもんあんなやつ 小林こばやしますます笑っわらっ
かれ笑うわらうたびいち調子ちょうしずつ余裕よゆう生じしょうじ
蓋しけだしやむなかっわけだろうしかしそれぼく云ういうことぼくだれ喧嘩けんかって構わかまわないおとこだれ喧嘩けんかたってそんっこない境遇きょうぐう沈淪ちんりんいる人間にんげん喧嘩けんか結果けっかもしどこあるすれそれぼくそんにゃならないなんなれぼくいまだかつてそんなるべき何物なにもの最初さいしょからもっないから要するようする喧嘩けんかから起りおこり得るうるすべて変化へんかみんなぼくとくなるだけからぼくむしろ喧嘩けんか希望きぼういいくらいものけれどきみ違うちがうきみ喧嘩けんかけっしてとくにゃならないそうきみほどまた損得そんとく利害りがいよく心得こころえいるおとこ世間せけんたんとないただ心得こころえてるばかりじゃないきみそう心得こころえしたあさからばんまでたり起きおきたりられるおとこ少くすくなくともそうなけれならない始終しじゅう考えかんがえいるおとこ好いよいそのきみ 津田つだ面倒臭めんどうしゅうそう小林こばやし遮ぎっさえぎっ
よし解っわかっ解っわかっつまりほか衝突しょうとつする注意ちゅういくれるだろうこときみ衝突しょうとつちゃぼくそんなるだけからなるべくこと穏便おんびんしろいう忠告ちゅうこくだろうきみ主意しゅい 小林こばやし惚けぼけかおすまし返っかえっ
なんぼく ぼくちっともきみ喧嘩けんかするないもう解っわかっいう解っわかったらそれいい誤解ごかいないよう注意ちゅういおくぼく先刻せんこくからお秀おひでさんこと問題もんだいいるきみそれ解っわかってる解っわかってるってそりゃ京都きょうとことだろうあっち不首尾ふしゅびなるいう意味いみだろうもちろんところきみそれだけじゃないまだほか響いひびい来るくるつけない 小林こばやしそこ切っきっ自分じぶん言葉ことば影響えいきょう試験しけんするため津田つだかお眺めながめ
津田つだはたして平気へいきいることできなかっ
百二十ひゃくにじゅう
小林こばやしここいう時機じき捕まえつかまえ
お秀おひでさんきみ云いいい出しだしかれもう津田つだとりこ
お秀おひでさんきみ先生せんせいところ来るくるまえもういちのきほか廻っまわっ
11/19