こころ

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二人ふたり帰るかえるとき歩きあるきながら沈黙ちんもく一丁いちちょうていつづい
その後そのあと突然とつぜん先生せんせいくち利ききき出しだし
悪いわるいこと怒っどっからつまさぞ心配しんぱいいるだろう考えるかんがえるおんな可哀そうかわいそうものですわたくしつまなどわたくしよりそとまるで頼りたよりするものないから 先生せんせい言葉ことばちょっとそこ途切れとぎれべつわたくし返事へんじ期待きたいする様子ようすなくすぐその続きつづき移っうつっ行っいっ
そういうおっとほういかにこころ丈夫じょうぶよう少しすこし滑稽こっけいきみわたくしきみどう映りうつります強いつよいひと見えみえます弱いよわいひと見えみえます中位ちゅうい見えみえますわたくし答えこたえ
この答えこたえ先生せんせいとっ少しすこし案外あんがいらしかっ
先生せんせいまたくち閉じとじ無言むごん歩きあるき出しだし
先生せんせいたく帰るかえるわたくし下宿げしゅくついそば通るとおる順路じゅんろあっ
わたくしそこまで曲り角まがりかど分れるわかれる先生せんせい済ますまないよう
ついでたくまえまでともましょういっ
先生せんせい忽ちたちまちわたくし遮っさえぎっ
もう遅いおそいから早くはやく帰りかえりたまえわたくし早くはやく帰っかえっやるから妻君さいくんため 先生せんせい最後さいご付け加えつけくわえ妻君さいくんためいう言葉ことばみょうそのわたくしこころ暖かあたたか
わたくしその言葉ことばため帰っかえっから安心あんしん寝るねることでき
わたくしその後そのあと長いながいこの妻君さいくんためいう言葉ことば忘れわすれなかっ
先生せんせい奥さんおくさん起っおこっ波瀾はらん大したたいしたものないことこれ解っわかっ
それまた滅多めった起るおこる現象げんしょうなかっことその後そのあと絶えたえ出入りでいりわたくしほぼ推察すいさつでき
それどころ先生せんせいあるこんな感想かんそうすらわたくし洩らしもらし
わたくし世の中よのなかおんないうものたっ一人ひとりしか知らしらないつま以外いがいおんなほとんどおんなわたくし訴えうったえないですつまほうわたくし天下てんかただ一人ひとりしかないおとこ思っおもっくれますそういう意味いみからいっ私たちわたくしたち最ももっとも幸福こうふく生れうまれ人間にんげんいちたいあるべきはずです わたくしいま前後ぜんご行き掛りいきがかり忘れわすれしまっから先生せんせいなんためこんな自白じはくわたくし聞かきか判然はんぜんいうことできない
けれど先生せんせい態度たいど真面目まじめあっ調子ちょうし沈んしずんいまだ記憶きおく残っのこっいる
そのただわたくしみみ異様いよう響いひびい最ももっとも幸福こうふく生れうまれ人間にんげんいちたいあるべきはずですいう最後さいご一句いっくあっ
先生せんせいなぜ幸福こうふく人間にんげんいい切らいいきらないあるべきはずある断わっことわっ
わたくしそれだけ不審ふしんあっ
ことそこ一種いっしゅちから入れいれ先生せんせい語気ごき不審ふしんあっ
先生せんせい事実じじつはたして幸福こうふくだろうまた幸福こうふくあるべきはずありながらそれほど幸福こうふくないだろう
わたくしこころなか疑らうたぐらざるとくなかっ
けれどその疑いうたがい一時いちじ限りかぎりどこ葬らほうむらしまっ
わたくしそのうち先生せんせい留守るす行っいっ奥さんおくさん二人ふたり差向いさしむかいはなしする機会きかい出合っであっ
先生せんせいその横浜よこはま出帆しゅっぱんする汽船きせん乗っのっ外国がいこく行くいくべき友人ゆうじん新橋しんばし送りおくり行っいっ留守るすあっ
横浜よこはまからふね乗るのるひとあさはち時半じはん汽車きしゃ新橋しんばし立つたつそのころ習慣しゅうかんあっ
わたくしある書物しょもつつい先生せんせい話しはなしもらう必要ひつようあっあらかじめ先生せんせい承諾しょうだくとく通りとおり約束やくそくきゅう訪問ほうもん
先生せんせい新橋しんばし行きいき前日ぜんじつわざわざ告別こくべつ友人ゆうじん対するたいするれいその突然とつぜん起っおこっ出来事できごとあっ
先生せんせいすぐ帰るかえるから留守るすわたくし待っまっいるよういい残しいいのこし行っいっ
それわたくし座敷ざしき上がっあがっ先生せんせい待つまつ奥さんおくさんはなし
十一じゅういち
そのわたくしすでに大学生だいがくせいあっ
始めはじめ先生せんせいたくころから見るみるずっと成人せいじん
奥さんおくさんとも大分おおいた懇意こんいなっあとあっ
わたくし奥さんおくさん対したいしなん窮屈きゅうくつ感じかんじなかっ
差向いさしむかい色々いろいろはなし
しかしそれ特色とくしょくないただ談話だんわからいままるで忘れわすれしまっ
そのうちたったいちわたくしみみ留まっとまっものある
しかしそれ話すはなすまえちょっと断っことわっおきたいことある
先生せんせい大学だいがく出身しゅっしんあっ
これ始めはじめからわたくし知れしれ
しかし先生せんせいなんない遊んあそんいるいうこと東京とうきょう帰っかえっ少しすこし経っきょうっから始めはじめ分っわかっ
わたくしそのどう遊んあそんられる思っおもっ
先生せんせいまるで世間せけん名前なまえ知らしらないひとあっ
から先生せんせい学問がくもん思想しそうつい先生せんせいみつせつ関係かんけいもっいるわたくしよりそと敬意けいい払うはらうものあるべきはずなかっ
それわたくしつね惜しいおしいこといっ
先生せんせいまたわたくしようもの世の中よのなかくち利いきい済ますまない答えるこたえるぎり取り合わとりあわなかっ
わたくしその答えこたえ謙遜けんそん過ぎすぎかえって世間せけん冷評れいひょうするよう聞こえきこえ
実際じっさい先生せんせい時々ときどきむかし同級生どうきゅうせいいま著名ちょめいなっいる誰彼だれかれ捉えとらえひどく無遠慮むえんりょ批評ひひょう加えるくわえることあっ
それわたくし露骨ろこつその矛盾むじゅん挙げあげ云々うんぬん
わたくし精神せいしん反抗はんこう意味いみいうより世間せけん先生せんせい知らしらない平気へいきいる残念ざんねんだっからある
その先生せんせい沈んしずん調子ちょうしどうわたくし世間せけん向かっむかっ働き掛けるはたらきかける資格しかくないおとこから仕方しかたありませいっ
先生せんせいかお深いぶかいいちしゅ表情ひょうじょうありあり刻まきざま
わたくしそれ失望しつぼう不平ふへい悲哀ひあい解らわからなかっけれど何しろなにしろ二の句にのく継げつげないほど強いつよいものだっわたくしそれぎりなんいう勇気ゆうきなかっ
わたくし奥さんおくさん話しはなしいる問題もんだい自然しぜん先生せんせいことからそこ落ちおち
先生せんせいなぜああやったく考えかんがえたり勉強べんきょうたりなさるだけ世の中よのなか仕事しごとなさらないでしょうあのひと駄目だめですそういうこと嫌いきらいですからつまり下らしたらないこと悟っさとっいらっしゃるでしょう悟るさとる悟らさとらないってそりゃおんなからわたくし解りわかりませけれどおそらくそんな意味いみじゃないでしょうやっぱりなんやりたいでしょうそれできないですから気の毒きのどくですしかし先生せんせい健康けんこうからいっべつどこ悪いわるいところないようじゃありませ丈夫じょうぶですとも何になんに持病じびょうありませそれなぜ活動かつどうできないでしょうそれ解らわからないあなたそれ解るわかるくらいならわたくしってこんな心配しんぱいやしませわからないから気の毒きのどくたまらないです 奥さんおくさん語気ごき非常ひじょう同情どうじょうあっ
それ口元くちもとだけ微笑びしょう見えみえ
外側そとがわからいえわたくしほうむしろ真面目まじめだっ
わたくしむずかしいかお黙っだまっ
する奥さんおくさんきゅう思い出しおもいだしようまたくち開いひらい
若いわかいあんなひとじゃなかっです若いわかいまるで違っちがっましそれ全くまったく変っかわっしまっです若いわかいっていつ頃いつごろですわたくし聞いきい
書生しょせい時代じだい書生しょせい時代じだいから先生せんせい知っしっいらっしゃっです 奥さんおくさんきゅう薄赤いうすあかいかお
十二じゅうに
奥さんおくさん東京とうきょうひとあっ
それかつて先生せんせいから奥さんおくさん自身じしんから聞いきい知っしっ
奥さんおくさん本当ほんとういう合の子あいのこですいっ
奥さんおくさん父親ちちおやたしか鳥取とっとりどこあるお母さんおははさんほうまだ江戸えどいっ時分じぶん市ヶ谷いちがや生れうまれおんな奥さんおくさん冗談じょうだん半分はんぶんそういっある
ところ先生せんせい全くまったく方角ほうがく違いちがい新潟県にいがたけんひとあっ
から奥さんおくさんもし先生せんせい書生しょせい時代じだい知っしっいるすれ郷里きょうり関係かんけいからないこと明らかあきらかあっ
しかし薄赤いうすあかいかお奥さんおくさんそれより以上いじょうはなしたくないようだっわたくしほう深くふかく聞かきかおい
先生せんせい知り合いしりあいなっから先生せんせい亡くなるなくなるまでわたくしずいぶん色々いろいろ問題もんだい先生せんせい思想しそう情操じょうそう触れふれ結婚けっこん当時とうじ状況じょうきょうついほとんど何ものなにもの聞きききとくなかっ
わたくしよるそれ善意ぜんい解釈かいしゃく
年輩ねんぱい先生せんせいことから艶めかしいなまめかしい回想かいそうなど若いわかいもの聞かきかせるわざと慎んつつしんいるだろう思っおもっ
よるまたそれ悪くわるく取っとっ
先生せんせい限らかぎら奥さんおくさん限らかぎら二人ふたりわたくし比べるくらべるいち時代じだいまえ因襲いんしゅううち成人せいじんためそういうあでっぽい問題もんだいなる正直しょうじき自分じぶん開放かいほうするだけ勇気ゆうきないだろう考えかんがえ
もっともどちら推測すいそく過ぎすぎなかっ
そうどちら推測すいそくうら二人ふたり結婚けっこんおく横たわるよこたわる花やかはなやかロマンスろまんす存在そんざい仮定かてい
わたくし仮定かていはたして誤らあやまらなかっ
けれどわたくしただこい半面はんめんだけ想像そうぞう描きえがきとく過ぎすぎなかっ
先生せんせい美しいうつくしい恋愛れんあいうら恐ろしいおそろしい悲劇ひげき持っもっ
そうその悲劇ひげきどんな先生せんせいとっむごものある相手あいて奥さんおくさんまるで知れしれなかっ
奥さんおくさんいまそれ知らしらいる
先生せんせいそれ奥さんおくさん隠しかくし死んしん
先生せんせい奥さんおくさん幸福こうふく破壊はかいするまえまず自分じぶん生命せいめい破壊はかいしまっ
わたくしいまこの悲劇ひげきつい何事なにごと語らかたらない
その悲劇ひげきためむしろ生れ出うまれでいえる二人ふたり恋愛れんあいつい先刻せんこくいっ通りとおりあっ
二人ふたりわたくしほとんどなん話しはなしくれなかっ
奥さんおくさん慎みつつしみため先生せんせいまたそれ以上いじょう深いぶかい理由りゆうため
ただいちわたくし記憶きおく残っのこっいることある
或るある時花ときはな時分じぶんわたくし先生せんせいいっしょ上野うえの行っいっ
そうそこ美しいうつくしいいちたい男女だんじょ
かれ睦まじむつまじそう寄り添っよりそっはなした歩いあるい
場所ばしょ場所ばしょはなよりそちら向いむかいだているひと沢山たくさんあっ
新婚しんこん夫婦ふうふよう先生せんせいいっ
なか好さよさそうですわたくし答えこたえ
先生せんせい苦笑くしょうさえなかっ
二人ふたり男女だんじょ視線しせんそと置くおくよう方角ほうがくあし向けむけ
それからわたくしこう聞いきい
きみこいことあります わたくしない答えこたえ
こいしたくありませ わたくし答えこたえなかっ
たくないことないでしょうええきみいまあのおとこおんな冷評れいひょうましあの冷評れいひょううちきみこい求めもとめながら相手あいてとくられないいう不快ふかいこえ交っかっましょうそんなかぜ聞こえきこえまし聞こえきこえましこい満足まんぞく味わっあじわっいるひともっと暖かいあたたかいこえ出すだすものですしかししかしきみこい罪悪ざいあくです解っわかっます わたくしきゅう驚かさおどろかさ
なん返事へんじなかっ
十三じゅうさん
我々われわれ群集ぐんしゅうなか
群集ぐんしゅういずれ嬉しうれしそうかお
そこ通り抜けとおりぬけはなひと見えみえないもりなか来るくるまで同じおなじ問題もんだいくちする機会きかいなかっ
こい罪悪ざいあくですわたくしその突然とつぜん聞いきい
罪悪ざいあくですたしか答えこたえ先生せんせい語気ごきまえ同じおなじよう強かっつよかっ
なぜですなぜいま解りわかりますいまじゃないもう解っわかっいるはずですあなたこころとっくむかしからすでにこい動いうごいいるじゃありませ わたくし一応いちおう自分じぶんむねなか調べしらべ
けれどそこ案外あんがい空虚くうきょあっ
思いあたるおもいあたるようもの何になんになかっ
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わたくし先生せんせいから離れはなれ行くいくよう思いおもいなれ仕方しかたありませわたくしそんな起っおこっことまだありませ 先生せんせいわたくし言葉ことばみみ貸さかさなかっ
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しかし事実じじつ知らしらなかっ
いずれ先生せんせいいう罪悪ざいあくいう意味いみ朦朧もうろうよく解らわからなかっ
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先生せんせい罪悪ざいあくいう意味いみもっと判然はんぜんいっ聞かしきかし下さいくださいそれなけれこの問題もんだいここ切り上げきりあげ下さいください私自身わたくしじしん罪悪ざいあくいう意味いみ判然はんぜん解るわかるまで悪いわるいことわたくしあなた真実しんじつ話しはなしいるところ実際じっさいあなた焦慮しょうりょわたくし悪いわるいこと 先生せんせいわたくし博物館はくぶつかんうらからうぐいすけい方角ほうがく静かしずか歩調ほちょう歩いあるい行っいっ
かき隙間すきまから広いひろいにわ一部いちぶ茂るしげる熊笹くまざさ幽邃ゆうすい見えみえ
きみわたくしなぜ毎月まいつき雑司ヶ谷ぞうしがや墓地ぼち埋っうまっいる友人ゆうじんはか参るまいる知っしっます 先生せんせいこの問いとい全くまったく突然とつぜんあっ
しかも先生せんせいわたくしこの問いとい対したいし答えこたえられないいうことよく承知しょうち
わたくししばらく返事へんじなかっ
する先生せんせい始めはじめ付いついようこういっ
また悪いわるいこといっ焦慮しょうりょ悪いわるい思っおもっ説明せつめいしようするその説明せつめいまたあなた焦慮しょうりょせるよう結果けっかなるどう仕方しかたないこの問題もんだいこれ止めとめましょうとにかくこい罪悪ざいあくですござんそう神聖しんせいものです わたくし先生せんせいはなしますます解らわからなくなっ
しかし先生せんせいそれぎりこいくちなかっ
十四じゅうよん
ねん若いわかいわたくしややするいちなりやすかっ
少なくすくなくとも先生せんせいそう映っうつっらしい
わたくし学校がっこう講義こうぎより先生せんせい談話だんわほう有益ゆうえきあっ
教授きょうじゅ意見いけんより先生せんせい思想しそうほう有難いありがたいあっ
とどの詰まりとどのつまりいえ教壇きょうだん立ったっわたくし指導しどうくれる偉いえらい人々ひとびとよりただ独りひとり守っまもっ多くおおく語らかたらない先生せんせいほう偉くえらく見えみえあっ
あんまり逆上ぎゃくじょうちゃいけませ先生せんせいいっ
覚めさめ結果けっかそう思うおもうです答えこたえわたくし充分じゅうぶん自信じしんあっ
その自信じしん先生せんせいがっくれなかっ
あなたねつ浮かさうかさいるですねつさめるいやなりますわたくしいまあなたからそれほど思わおもわれる苦しくくるしく感じかんじますしかしこれからさきあなた起るおこるべき変化へんか予想よそう見るみるなお苦しくくるしくなりますわたくしそれほど軽薄けいはく思わおもわいるですそれほど信用しんようですわたくし気の毒きのどく思うおもうです気の毒きのどく信用しんようないおっしゃるです 先生せんせい迷惑めいわくそうにわほう向いむかい
そのにわこのまでじゅうそう赤いあかい強いつよいいろぽたぽた点じてんじ椿つばきはなもういち見えみえなかっ
先生せんせい座敷ざしきからこの椿つばきはなよく眺めるながめるくせあっ
信用しんようないって特にとくにあなた信用しんようないじゃない人間にんげん全体ぜんたい信用しんようないです その生垣いけがき向うむこう金魚きんぎょ売りうりらしいこえ
そのそとなん聞こえるきこえるものなかっ
大通りおおどおりからてい深くふかく折れ込んおれこん小路こうじ存外ぞんがい静かしずかあっ
いえなかいつも通りとおりひっそり
わたくし次の間つぎのま奥さんおくさんいること知っしっ
黙っだまっ針仕事はりしごとなんいる奥さんおくさんみみわたくし話し声はなしごえ聞こえるきこえるいうこと知っしっ
しかしわたくし全くまったくそれ忘れわすれしまっ
じゃ奥さんおくさん信用しんようなさらないです先生せんせい聞いきい
先生せんせい少しすこし不安ふあんかお
そう直接ちょくせつ答えこたえ避けさけ
わたくし私自身わたくしじしんさえ信用しんようないですつまり自分じぶん自分じぶん信用しんようできないからひと信用しんようできないようなっいるです自分じぶん呪うのろうよりそと仕方しかたないですそうむずかしく考えれかんがえれだれって確かたしかものないでしょういや考えかんがえじゃないやっですやっあと驚いおどろいですそう非常ひじょう怖くこわくなっです わたくしもう少しすこしさきまで同じおなじみち辿ったどっ行きいきたかっ
するふすまかげあなたあなたいう奥さんおくさんこえ聞こえきこえ
先生せんせい度目どめなんいっ
奥さんおくさんちょっと先生せんせい次の間つぎのま呼んよん
二人ふたりどんな用事ようじ起っおこっわたくし解らわからなかっ
それ想像そうぞうする余裕よゆう与えあたえないほど早くはやく先生せんせいまた座敷ざしき帰っかえっ
とにかくあまりわたくし信用しんよういけませいま後悔こうかいするからそう自分じぶん欺かあざむか返報へんぽう残酷ざんこく復讐ふくしゅうするようなるものからそりゃどういう意味いみですかつてそのひとひざまえ跪いひざまずいいう記憶きおく今度こんどそのひとあたまうえあし載せのせさせようするですわたくし未来みらい侮辱ぶじょく受けうけないためいま尊敬そんけい斥けしりぞけたい思うおもうですわたくしいまより一層いっそう淋しいさびしい未来みらいわたくし我慢がまんする代りかわり淋しいさびしいいまわたくし我慢がまんたいです自由じゆう独立どくりつ己れおのれ充ちみち現代げんだい生れうまれ我々われわれその犠牲ぎせいみんなこの淋しみさびしみ味わわあじわわなくならないでしょう わたくしこういう覚悟かくごもっいる先生せんせい対したいしいうべき言葉ことば知らしらなかっ
十五じゅうご
その後そのあとわたくし奥さんおくさんかお見るみるたびなっ
先生せんせい奥さんおくさん対したいし始終しじゅうこういう態度たいど出るでるだろう
もしそうすれ奥さんおくさんそれ満足まんぞくだろう
奥さんおくさん様子ようす満足まんぞくとも不満足ふまんぞくとも極めきわめようなかっ
わたくしそれほど近くほどちかく奥さんおくさん接触せっしょくする機会きかいなかっから
それから奥さんおくさんわたくし会うあうたび尋常じんじょうあっから
最後さいご先生せんせいいるせきなけれわたくし奥さんおくさん滅多めったかお合せあわせなかっから
わたくし疑惑ぎわくまだそのうえあっ
先生せんせい人間にんげん対するたいするこの覚悟かくごどこから来るくるだろう
ただ冷たいつめたい自分じぶん内省ないせいたり現代げんだい観察かんさつたり結果けっかだろう
先生せんせい坐っすわっ考えるかんがえるしつひとあっ
先生せんせいあたまさえあれこういう態度たいど坐っすわっ世の中よのなか考えかんがえ自然しぜん来るくるものだろう
わたくしそうばかり思えおもえなかっ
先生せんせい覚悟かくご生きいき覚悟かくごらしかっ
焼けやけ冷却れいきゃく切っきっ石造せきぞう家屋かおく輪廓りんかく違っちがっ
わたくし映ずるえいずる先生せんせいたしか思想家しそうかあっ
けれどその思想家しそうか纏め上げまとめあげ主義しゅぎうら強いつよい事実じじつ織り込まおりこまいるらしかっ
自分じぶん切り離さきりはなさ他人たにん事実じじつなくっ自分自身じぶんじしん痛切つうせつ味わっあじわっ事実じじつ熱くあつくなったりみゃく止まっとまったりするほど事実じじつ畳み込またたみこまいるらしかっ
これわたくしむね推測すいそくするものない
先生せんせい自身じしんすでにそう告白こくはく
ただその告白こくはくくもみねようあっ
わたくしあたまうえ正体しょうたい知れしれない恐ろしいおそろしいもの蔽い被せおおいかぶせ
そうなぜそれ恐ろしいおそろしいわたくし解らわからなかっ
告白こくはくぼうと
それ明らかあきらかわたくし神経しんけい震わせふるわせ
わたくし先生せんせいこの人生観じんせいかん基点きてん或るある強烈きょうれつ恋愛れんあい事件じけん仮定かてい
無論むろん先生せんせい奥さんおくさん起っおこっ
先生せんせいかつてこい罪悪ざいあくいっことから照らし合せてらしあわせ見るみる多少たしょうそれ手掛りてがかりなっ
しかし先生せんせい現にげんに奥さんおくさん愛しあいしいるわたくし告げつげ
する二人ふたりこいからこんな厭世えんせい近いちかい覚悟かくご出ようでようはずなかっ
かつてそのひとまえ跪いひざまずいいう記憶きおく今度こんどそのひとあたまうえあし載せのせさせようするいっ先生せんせい言葉ことば現代げんだい一般いっぱん誰彼だれかれつい用いもちいられるべき先生せんせい奥さんおくさん当てはまらあてはまらないものようあっ
雑司ヶ谷ぞうしがやあるだれ分らわからないひとはかこれわたくし記憶きおく時々ときどき動いうごい
わたくしそれ先生せんせい深いぶかい縁故えんこあるはかいうこと知っしっ
先生せんせい生活せいかつ近づきちかづきつつありながら近づくちかづくことできないわたくし先生せんせいあたまなかある生命せいめい断片だんぺんそのはかわたくしあたまなか受け入れうけいれ
けれどわたくし取っとっそのはか全くまったく死んしんものあっ
二人ふたりある生命せいめいとびら開けるあけるかぎならなかっ
むしろ二人ふたり立ったっ自由じゆう往来おうらい妨げるさまたげる魔物まものようあっ
そうこういるうちわたくしまた奥さんおくさん差し向いさしむかいはなしなけれならない時機じき
そのころ詰っなじっ行くいくせわしないあきだれ注意ちゅうい惹かひかれる肌寒はださむ季節きせつあっ
先生せんせい附近ふきん盗難とうなん罹っかかっものさんよん続いつづい
盗難とうなんいずれ宵の口よいのくちあっ
大したたいしたもの持っもっ行かいかいえほとんどなかっけれどはいらところ必ずかならずなん取らとら
奥さんおくさん気味きみわるく
そこ先生せんせいあるばんいえ空けあけなけれならない事情じじょうでき
先生せんせい同郷どうきょう友人ゆうじん地方ちほう病院びょういん奉職ほうしょくいるもの上京じょうきょうため先生せんせいそとさんともあるところその友人ゆうじんめし食わくわなけれならなくなっ
先生せんせいわけ話しはなしわたくし帰っかえっくるまで留守番るすばん頼んたのん
わたくしすぐ引き受けひきうけ
十六じゅうろく
わたくし行っいっまだあかり点くつく点かてんかない暮れ方くれがたあっ几帳面きちょうめん先生せんせいもうたくなかっ
時間じかん後れるおくれる悪いわるいってつい今しがたいましがた出掛けでかけましいっ奥さんおくさんわたくし先生せんせい書斎しょさい案内あんない
書斎しょさいようつくえ椅子いすそと沢山たくさん書物しょもつ美しいうつくしい背皮せがわ並べならべ硝子がらすこし電燈でんとうひかり照らさてらさ
奥さんおくさん火鉢ひばちまえ敷いしい座蒲団ざふとんうえわたくし坐らすわらちっとそこいらあるほん読んよん下さいください断っことわっ行っいっ
わたくしちょうど主人しゅじん帰りかえり待ち受けるまちうけるきゃくよう済ますまなかっ
わたくし畏まっかしこまっまま烟草たばこ飲んのん
奥さんおくさん茶の間ちゃのまなん下女げじょ話しはなしいるこえ聞こえきこえ
書斎しょさい茶の間ちゃのま縁側えんがわ突き当っつきあたっ折れ曲っおれまがっかくあるむね位置いちからいう座敷ざしきよりかえって掛け離れかけはなれ静かしずか領しりょうし
ひとしきり奥さんおくさん話し声はなしごえ已むやむあとしんと
わたくし泥棒どろぼう待ち受けるまちうけるよう心持こころもち凝とじっとながらどこ配っくばっ
三十さんじゅうぶんほどする奥さんおくさんまた書斎しょさい入口いりぐちかお出しだし
おやいっ軽くかるく驚いおどろいわたくし向けむけ
そうきゃくひとよう鹿爪らしくしかつめらしく控えひかえいるわたくしおかしそう
それじゃ窮屈きゅうくつでしょういえ窮屈きゅうくつじゃありませ退屈たいくつでしょういいえ泥棒どろぼう来るくる思っおもっ緊張きんちょういるから退屈たいくつありませ 奥さんおくさん紅茶こうちゃ茶碗ちゃわん持っもっまま笑いわらいながらそこ立ったっ
ここ隅っこすみっこからばんする好くよくありませわたくしいっ
じゃ失礼しつれいですもっと真中まなか頂戴ちょうだい退屈たいくつだろう思っおもっちゃ入れいれ持っもっです茶の間ちゃのま宜しけれよろしけれあちら上げあげますから わたくし奥さんおくさんあと書斎しょさい
茶の間ちゃのま綺麗きれいなが火鉢ひばち鉄瓶てつびん鳴っなっ
わたくしそこちゃ菓子かしご馳走ごちそうなっ
奥さんおくさんられないいけないいっ茶碗ちゃわん触れふれなかっ
先生せんせいやっぱり時々ときどきこんなかいお出掛けおでかけなるですいいえ滅多めったことありませ近頃ちかごろ段々だんだんひとかお見るみる嫌いきらいなるようです こういっ奥さんおくさん様子ようす別段べつだん困っこまっものいうかぜ見えみえなかっわたくしつい大胆だいたんなっ
それじゃ奥さんおくさんだけ例外れいがいですいいえわたくし嫌わいやわいる一人ひとりですそりゃうそですわたくしいっ
奥さんおくさん自身じしんうそ知りしりながらそうおっしゃるでしょうなぜわたくしいわせる奥さんおくさん好きすきなっから世間せけん嫌いきらいなるですものあなた学問がくもんするほうだけあっなかなかお上手おかみて空っぽからっぽ理屈りくつ使いこなすつかいこなすこと世の中よのなか嫌いきらいなっからわたくしまで嫌いきらいなっいわれるじゃありませそれどう理屈りくつ両方りょうほういわれることいわますこの場合ばあいわたくしほう正しいただしいです議論ぎろんいやよくおとこほう議論ぎろんだけなさる面白おもしろそうそらさかずきよくああ飽きあき献酬けんしゅうできる思いおもいます 奥さんおくさん言葉ことば少しすこし手痛かっていたかっ
しかしその言葉ことばみみさわりからいう決してけっして猛烈もうれつものなかっ
自分じぶん頭脳ずのうあること相手あいて認めみとめさせそこ一種いっしゅ誇りほこり見出すみだすほど奥さんおくさん現代的げんだいてきなかっ
奥さんおくさんそれよりもっとそこほう沈んしずんこころ大事だいじいるらしく見えみえ
十七じゅうなな
わたくしまだその後そのあというべきこともっ
けれど奥さんおくさんから徒らいたずら議論ぎろん仕掛けるしかけるおとこよう取らとら困るこまる思っおもっ遠慮えんりょ
奥さんおくさん飲み干しのみほし紅茶こうちゃ茶碗ちゃわんそこ覗いのぞい黙っだまっいるわたくし外らさそらさないようもう一杯いちばい上げあげましょう聞いきい
わたくしすぐ茶碗ちゃわん奥さんおくさん渡しわたし
いくつ いち  みょうもの角砂糖かくさとうつまみ上げつまみあげ奥さんおくさんわたくしかお茶碗ちゃわんなか入れるいれる砂糖さとうすう聞いきい
奥さんおくさん態度たいどわたくし媚びるこびるいうほどなかっけれど先刻せんこく強いつよい言葉ことば力めりきめ打ち消そううちけそうする愛嬌あいきょう充ちみち
わたくし黙っだまっちゃ飲んのん
飲んのんしまっ黙っだまっ
あなた大変たいへん黙り込んだまりこんじまっ奥さんおくさんいっ
なんいうまた議論ぎろん仕掛けるしかけるなんて叱り付けしかりつけられそうですからわたくし答えこたえ
まさか奥さんおくさん再びふたたびいっ
二人ふたりそれ緒口いとぐちまたはなし始めはじめ
そうまた二人ふたり共通きょうつう興味きょうみある先生せんせい問題もんだい
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十八じゅうはち
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わたくし早速さっそく先生せんせいうちきん返しかえし行っいっ
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