こころ

19/30

19
わたくしいよいよ立とうたとういう間際まぎわなったしかまえ夕方ゆうがたことあっ思うおもうちちまた突然とつぜん引っ繰り返っひっくりかえっ
わたくしその書物しょもつ衣類いるい詰めつめ行李こうりからげ
ちち風呂ふろ入っはいっところあっ
ちち背中せなか流しながし行っいっはは大きなおおきなこえ出しだしわたくし呼んよん
わたくし裸体らたいまま母ままはは後ろうしろから抱かかかえかいるちち
それ座敷ざしき伴れつれ戻っもどっちちもう大丈夫だいじょうぶいっ
ねんため枕元まくらもと坐っすわっ濡手ぬれてぬぐえちちあたま冷しひやしわたくしきゅうころなっようやくかたちばかり夜食やしょく済ましすまし
翌日よくじつなるちち思っおもっより元気げんき好かっよかっ
留めるとめる聞かきか歩いあるい便所べんじょ行っいったり
もう大丈夫だいじょうぶ ちち去年きょねんくれ倒れたおれわたくし向かっむかっいっ同じおなじ言葉ことばまた繰り返しくりかえし
そのはたしてくちいっ通りとおり大丈夫だいじょうぶあっ
わたくし今度こんどあるいはそうなる知れしれない思っおもっ
しかし医者いしゃただ用心ようじん肝要かんよう注意ちゅういするだけねん押しおし判然はんぜんこと話しはなしくれなかっ
わたくし不安ふあんため出立しゅったつついに東京とうきょう立つたつ起らおこらなかっ
もう少しすこし様子ようすからましょうわたくしはは相談そうだん
そうくれはは頼んたのん
ははちちにわたり背戸せど下りくだりたりする元気げんきいるだけ平気へいきいるくせこんなこと起るおこるまた必要ひつよう以上いじょう心配しんぱいたり揉んもんだり
お前おまえ今日きょう東京とうきょう行くいくはずじゃなかっちち聞いきい
ええ少しすこし延ばしのばしましわたくし答えこたえ
おれためちち聞き返しききかえし
わたくしちょっと躊躇ちゅうちょ
そういえちち病気びょうき重いおもい裏書きうらがきするようものあっ
わたくしちち神経しんけい過敏かびんたくなかっ
しかしちちわたくしこころよく見抜いみぬいいるらしかっ
気の毒きのどくいっにわほう向いむかい
わたくし自分じぶん部屋へやはいっそこ放り出さほうりださ行李こうり眺めながめ
行李こうりいつ持ち出しもちだし差支えさしつかえないよう堅くかたく括らくくらままあっ
わたくしぼんやりそのまえ立ったっまたなわ解こうとこう考えかんがえ
わたくし坐っすわっままこし浮かしうかし落ち付かおちつかない気分きぶんまたさんよん過ごしすごし
するちちまた卒倒そっとう
医者いしゃ絶対ぜったい安臥あんが命じめいじ
どうものだろうははちち聞こえきこえないよう小さなちいさなこえわたくしいっ
ははかおいかに心細こころぼそそうあっ
わたくしあにいもうと電報でんぽう打つうつ用意ようい
けれどいるちちほとんどなん苦悶くもんなかっ
はなしするところなど見るみる風邪かぜ引いひい全くまったく同じおなじことあっ
そのうえ食欲しょくよく不断ふだんより進んすすん
そばもの注意ちゅうい容易よういいうこと聞かきかなかっ
どうせ死ぬしぬから旨いうまいもの食っしょくっ死なしななくっちゃ わたくし旨いうまいものいうちち言葉ことば滑稽こっけい悲酸ひさん聞こえきこえ
ちち旨いうまいものくち入れいれられる住んすんなかっある
よる入っはいっかき餅かきもちなど焼いやいもらっぼりぼり噛んかん
どうこう渇くかわくやっぱりこころ丈夫じょうぶところある知れしれない はは失望しつぼういいところかえっ頼みたのみ置いおい
そのくせ病気びょうきしか使わつかわない渇くかわくいうむかしかぜ言葉ことばなん食べたべたがる意味いみ用いもちい
伯父おじ見舞みまいときちちいつまで引き留めひきとめ帰さきさなかっ
淋しいさびしいからもっとくれいう重なおもな理由りゆうあっははわたくし食べたべたいだけもの食べたべさせないいう不平ふへい訴えるうったえるその目的もくてきいちあっらしい
19/30