こころ

15/30

15
ちち元気げんき次第しだい衰えおとろえ行っいっ
わたくし驚かおどろきかハンケチはんけち付きつき古いふるい麦藁帽子むぎわらぼうし自然しぜん閑却かんきゃくれるようなっ
わたくし黒いくろい煤けすすけたなうえ載っのっいるその帽子ぼうし眺めるながめるたびちち対したいし気の毒きのどく思いおもい
ちち以前いぜんよう軽々けいけい動くうごくもう少しすこし慎んつつしんくれたら心配しんぱい
ちち凝とじっと坐り込むすわりこむようなるやはりもとほう達者たっしゃだっいう起っおこっ
わたくしちち健康けんこうついよくはは話し合っはなしあっ
まったくせいははいっ
ははあたま陛下へいかやまいちちやまい結び付けむすびつけ考えかんがえ
わたくしそうばかり思えおもえなかっ
じゃない本当ほんとう身体しんたいわるないでしょうどう気分きぶんより健康けんこうほう悪くわるくなっ行くいくらしい わたくしこういっこころうちまた遠くとおくから相当そうとう医者いしゃ呼んよんいち見せようみせようかしら思案しあん
今年ことしなつお前おまえ詰らなじらなかろうせっかく卒業そつぎょうお祝いおいわい上げるあげることできお父さんおちちさん身体しんたいあの通りとおりそれ天子てんしよう病気びょうきいっそこと帰るかえるすぐお客おきゃく呼ぶよぶほう好かっよかっ わたくし帰っかえっななつきろくちちははわたくし卒業そつぎょう祝ういわうためきゃく呼ぼうよぼういいだしそれからいち週間しゅうかんあとあっ
そういよいよ極めきわめそれからまたいち週間しゅうかんさきなっ
時間じかん束縛そくばく許さゆるさない悠長ゆうちょう田舎いなか帰っかえっわたくしお蔭おかげ好もしくこのもしくない社交しゃこううえ苦痛くつうから救わすくわ同じおなじことあっわたくし理解りかいないはは少しすこしそこ付いついないらしかっ
崩御ほうぎょ報知ほうち伝えつたえられちちその新聞しんぶんああああいっ
ああああ天子てんしようとうとうかくれなるおのれ ちちその後そのあといわなかっ
わたくし黒いくろいうすもの買うかうためまち
それ旗竿はたざおたま包んつつんそれ旗竿はたざおさきさんすんはばひらひら付けつけもんとびらよこから斜めななめ往来おうらいさし出しさしだし
はた黒いくろいひらひらかぜない空気くうきなかだらり下がっさがっ
わたくしたく古いふるいもん屋根やねわら葺いふいあっ
あめかぜ打たうたたりまた吹かふかたりそのわらいろとくに変色へんしょく薄くうすく灰色はいいろ帯びおびうえ所々ところどころ凸凹でこぼこさえ着いつい
わたくしひとりもんそと黒いくろいひらひら白いしろいりんなか染め出しそめだし赤いあかい日の丸ひのまるいろ眺めながめ
それうす汚ないきたない屋根やねわら映るうつる眺めながめ
わたくしかつて先生せんせいからあなたたく構えかまえどんな体裁ていさいですわたくし郷里きょうりほう大分おおいたおもむき違っちがっます聞かきかこと思い出しおもいだし
わたくし自分じぶん生れうまれこの古いふるいいえ先生せんせい見せみせたくあっ
また先生せんせい見せるみせる恥ずかしくはずかしくあっ
わたくしまた一人ひとりいえなかはいっ
自分じぶんつくえ置いおいあるところ新聞しんぶん読みよみながら遠いとおい東京とうきょう有様ありさま想像そうぞう
わたくし想像そうぞう日本一にっぽんいち大きなおおきなどんな暗いくらいなかどんな動いうごいいるだろう画面がめん集めあつめられ
わたくしその黒いくろいなり動かうごかなけれ仕末しまつつかなくなっ都会とかい不安ふあんざわざわいるなかいちてん燈火とうかごとく先生せんせいいえ
わたくしそのこの燈火とうかおとないうずなか自然しぜん捲き込ままきこまいること付かつかなかっ
しばらくすれそのあかりまたふっ消えきえしまうべき運命うんめいまえ控えひかえいる固よりもとより付かつかなかっ
わたくし今度こんど事件じけんつい先生せんせい手紙てがみ書こうかこう思っおもっふで執りとりかけ
わたくしそれじゅうこうばかり書いかい已めやめ
書いかいところ寸々すんずん引き裂いひきさい屑籠くずかご投げ込んなげこん
先生せんせい宛てあてそういうこと書いかい仕方しかたない思っおもっ前例ぜんれい徴ししるしみるとても返事へんじくれそうなかっから
わたくし淋しかっさびしかっ
それ手紙てがみ書くかくあっ
そう返事へんじ来れこれ好いよい思うおもうあっ
15/30