或阿呆の一生

22/51

二十二 或画家

第 22 章
それは或ある雑誌ざっしの※し画がだつた。
が、一いち羽はねの雄鶏おんどりの墨画ぼくがは著しいいちじるしい個性こせいを示ししめしてゐた。
彼かれは或ある友だちともだちにこの画家がかのことを尋ねたずねたりした。
一いち週間しゅうかんばかりたつた後あと、この画家がかは彼かれを訪問ほうもんした。
それは彼かれの一生いっしょうのうちでも特にとくに著しいいちじるしい事件じけんだつた。
彼かれはこの画家がかの中なかに誰だれも知らしらない詩しを発見はっけんした。
のみならず彼かれ自身じしんも知らしらずにゐた彼かれの魂たましいを発見はっけんした。
或ある薄ら寒いうすらさみい秋あきの日ひの暮くれ、彼かれは一いち本ほんの唐黍とうきびに忽ちたちまちこの画家がかを思ひ出しおもひだした。
丈たけの高いたかい唐黍とうきびは荒あらしいあらあらしい葉はをよろつたまま、盛り土もりつちの上うえには神経しんけいのやうに細ぼそほそぼそと根ねを露ろはしてゐた。
それは又また勿論もちろん傷きずき易いやすい彼かれの自画像じがぞうにも違ひちがひなかつた。
しかしかう云ふいふ発見はっけんは彼かれを憂欝ゆううつにするだけだつた。
「もう遅いおそい。しかしいざとなつた時じには……」
22/51