七 画
第 7 章
彼は突然、――それは実際突然だつた。
彼は或本屋の店先に立ち、ゴオグの画集を見てゐるうちに突然画と云ふものを了解した。
勿論そのゴオグの画集は写真版だつたのに違ひなかつた。
が、彼は写真版の中にも鮮かに浮かび上る自然を感じた。
この画に対する情熱は彼の視野を新たにした。
彼はいつか木の枝のうねりや女の頬の膨らみに絶え間ない注意を配り出した。
或雨を持つた秋の日の暮、彼は或郊外のガアドの下を通りかかつた。
ガアドの向うの土手の下には荷馬車が一台止まつてゐた。
彼はそこを通りながら、誰か前にこの道を通つたもののあるのを感じ出した。
誰か?
――それは彼自身に今更問ひかける必要もなかつた。
二十三歳の彼の心の中には耳を切つた和蘭人が一人、長いパイプを啣へたまま、この憂欝な風景画の上へぢつと鋭い目を注いでゐた。
……