三十八 復讐
第 38 章
それは木の芽の中にある或ホテルの露台だつた。
彼はそこに画を描きながら、一人の少年を遊ばせてゐた。
七年前に絶縁した狂人の娘の一人息子と。
狂人の娘は巻煙草に火をつけ、彼等の遊ぶのを眺めてゐた。
彼は重苦しい心もちの中に汽車や飛行機を描きつづけた。
少年は幸ひにも彼の子ではなかつた。
が、彼を「をぢさん」と呼ぶのは彼には何よりも苦しかつた。
少年のどこかへ行つた後、狂人の娘は巻煙草を吸ひながら、媚びるやうに彼に話しかけた。
「あの子はあなたに似てゐやしない?」「似てゐません。第一……」「だつて胎教と云ふこともあるでせう。」 彼は黙つて目を反らした。
が、彼の心の底にはかう云ふ彼女を絞め殺したい、残虐な欲望さへない訣ではなかつた。
……