或阿呆の一生

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四十八 死

第 48 章
彼かれは彼女かのじょとは死なしななかつた。
唯ただ未だいまだに彼女かのじょの体からだに指ゆび一いちつ触ふれつてゐないことは彼かれには何なんか満足まんぞくだつた。
彼女かのじょは何ごとなにごともなかつたやうに時々ときどき彼かれと話しはなしたりした。
のみならず彼かれに彼女かのじょの持つもつてゐた青酸せいさん加里かりを一いち罎渡し、「これさへあればお互たがいに力強いちからづよいでせう」とも言ついつたりした。
それは実際じっさい彼かれの心こころを丈夫じょうぶにしたのに違ひちがひなかつた。
彼かれはひとり籐椅子とういすに坐りすわり、椎しいの若葉わかばを眺めながめながら、度々たびたび死しの彼かれに与へあたへる平和へいわを考へかんがへずにはゐられなかつた。
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