或阿呆の一生

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二十八 殺人

第 28 章
田舎道いなかみちは日ひの光りひかりの中なかに牛うしの糞ふんの臭気しゅうきを漂はせてゐた。
彼かれは汗あせを拭ぬぐえひながら、爪つめ先きさき上りのぼりの道みちを登とうつて行つおこなつた。
道みちの両側りょうがわに熟しじゅくした麦むぎは香ばしいこうばしい匂においを放つはなつてゐた。
「殺せころせ、殺せころせ。……」 彼かれはいつか口くちの中なかにかう云ふいふ言葉ことばを繰り返しくりかえしてゐた。
誰だれを?
――それは彼かれには明らかあきらかだつた。
彼かれは如何にいかにも卑屈ひくつらしい五ご分ぶん刈かりの男おとこを思ひ出しおもひだしてゐた。
すると黄きばんだ麦むぎの向うむこうに羅馬ろーまカトリツク教きょうの伽藍がらんが一宇いちう、いつの間まにか円屋根まるやねを現しあらわし出しだした。
……
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