或阿呆の一生

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三十四 色彩

第 34 章
三十さんじゅう歳としの彼かれはいつの間まか或ある空き地あきちを愛しあいしてゐた。
そこには唯ただ苔こけの生えはえた上うえに煉瓦れんがや瓦かわらの欠片けっぺんなどが幾ついくつも散らちらかつてゐるだけだつた。
が、それは彼かれの目めにはセザンヌせざんぬの風景画ふうけいがと変りかわりはなかつた。
彼かれはふと七八しちはち年ねん前まえの彼かれの情熱じょうねつを思ひ出しおもひだした。
同時どうじに又また彼かれの七八しちはち年ねん前まえには色彩しきさいを知らしらなかつたのを発見はっけんした。
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