或阿呆の一生

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三十九 鏡

第 39 章
彼かれは或あるカツフエかつふえの隅すみに彼かれの友だちともだちと話しはなしてゐた。
彼かれの友だちともだちは焼やけ林檎りんごを食ひくひ、この頃このごろの寒ささむさの話はなしなどをした。
彼かれはかう云ふいふ話はなしの中なかに急きゅうに矛盾むじゅんを感じかんじ出しだした。
「君きみはまだ独身どくしんだつたね。」「いや、もう来月らいげつ結婚けっこんする。」 彼かれは思はおもうはず黙もくつてしまつた。
カツフエかつふえの壁かべに嵌めはめこんだ鏡かがみは無数むすうの彼かれ自身じしんを映しうつしてゐた。
冷えびえひえびえと、何なんか脅すおどすやうに。
……
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