或阿呆の一生

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八 火花

第 8 章
彼かれは雨あめに濡れぬれたまま、アスフアルトあすふあるとの上うえを踏んふんで行つおこなつた。
雨あめは可也かな烈れつしかつた。
彼かれは水沫すいまつの満ちみちた中なかにゴムごむ引いんの外套がいとうの匂においを感じかんじた。
すると目めの前まえの架空かくう線せんが一いち本ほん、紫いろむらさきいろの火花ひばなを発しはっしてゐた。
彼かれは妙みょうに感動かんどうした。
彼かれの上着うわぎのポケツトは彼かれ等とうの同人雑誌どうにんざっしへ発表はっぴょうする彼かれの原稿げんこうを隠しかくしてゐた。
彼かれは雨あめの中なかを歩きあるきながら、もう一度いちど後ろうしろの架空かくう線せんを見上げみあげた。
架空かくう線せんは不ふ相そう変へん鋭いするどい火花ひばなを放つはなつてゐた。
彼かれは人生じんせいを見渡しみわたしても、何なんも特にとくに欲しいほしいものはなかつた。
が、この紫色むらさきいろの火花ひばなだけは、――凄まじいすさまじい空中くうちゅうの火花ひばなだけは命いのちと取りとり換かえへてもつかまへたかつた。
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