彼岸過迄

18/58

18
かれ小川おがわまちまでちょっと電車でんしゃ下りくだり須永すなが門口かどぐちまで行っいっともくちから事実じじつ確かめたしかめたいくらい思っおもっ単純たんじゅん好奇心こうきしん以外いがいそんな立ち入ったちいっ詮議せんぎべき理由りゆうどこ見出しみだしとくない我慢がまんすぐ三田線みたせん移っうつっ
けれど真直まっすぐ神田橋かんだばし抜けぬけ丸の内まるのうち疾駆しっくするさい自分じぶん今須いましゅひさし従妹じゅうまいいえ向っむかっ走りはしりつつあるいう心持こころもち忘れわすれなかっ
かれ勧業かんぎょう銀行ぎんこうへん下りるおりるはずところつい桜田さくらだ本郷ほんごうまちまで乗り越しのりこし驚ろいおどろいまた暗いくらいほう引き返しひきかえし
淋しいさびしいよるあっ尋ねるたずねる目的もくてきいえすぐ知れしれ
丸いまりい瓦斯がす田口たぐち書いかいもんなか覗いのぞい見るみる思っおもっより奥深おくぶかそうかまえあっ
けれど実際じっさい砂利じゃり敷いしいみち往来おうらいから筋違すじかい玄関げんかん隠しかくしいる正面しょうめん遮ぎるさえぎる植込うえこみこんもり黒ずんくろずん立ったっいる幾分いくぶん厳めしいいかめしい景気けいき夜陰やいん添えそえまで門内もんない這入っはいっところ見付みつけほど手広てびろ住居じゅうきょなかっ
玄関げんかん西洋せいよう擬いなずらい硝子戸がらすとばいへいててあっ頼むたのむいっ電鈴でんれい押しおし取次とりつぎなかなかない敬太郎けいたろうやむとくしばらくそのそば立ったっうち様子ようすがっ
するどこからようやく足音あしおと聞こえきこえ出しだしまえ硝子がらすぱっ明るくあかるくなっ
それから庭下駄にわげた三和土たたき踏むふむおとあしさんあし思うおもう玄関げんかんとびら片方かたほう開いひらい
敬太郎けいたろうこのさい取次とりつぎ風采ふうさい想望そうぼうするほどもの数奇すうきなく全くまったく漫然まんぜん立ったっだけあるそれかすり羽織はおり書生しょせい双子ふたご綿入わたいれ下女げじょ一応いちおう御辞儀ごじぎかれ名刺めいし受取るうけとることのみ期待きたい今戸いまど半分はんぶん開けあけかれまえ立ったっ思いおもい寄らよら立派りっぱ服装ふくそうおい紳士しんしあっ
電気でんきひかり背中せなか受けうけいるかお判然はんぜんなかっしろ縮緬ちりめんおびだけすぐかれ映じえいじ
その瞬間しゅんかんすぐこれ田口たぐちいう須永すなが叔父おじさんだろういう感じかんじ敬太郎けいたろうあたま働いはたらい
けれどこと余りあまり意外いがいすぐ挨拶あいさつする余裕よゆう少しすこしあっけ取らとら気味きみぼんやり
そのうえ自分じぶんはなはだ若くわかく考えかんがえいる敬太郎けいたろう四十よんじゅうだいだろう五十ごじゅうだいだろう乃至ないし六十ろくじゅうだいだろうほとんど区別くべつない一様いちようじいさん見えるみえるくらいかれ老人ろうじん対したいし親しみしたしみないおとこあっ
かれ四十五よんじゅうご五十五ごじゅうご見分けみわけやるほど同情どうじょうこころ年長者ねんちょうしゃ対したいしゆうなかっ同時どうじそのいずれ向っむかっ慣れなれないうちこと人種じんしゅよう無気味むきみ覚えるおぼえるつねなおさら迷児まいごついある
しかし相手あいてなんかからない様子ようすなんようです聞いきい
丁寧ていねいなけれ軽蔑けいべつない至っていたって無雑むざつさくその言葉つきことばつき少しすこし敬太郎けいたろう度胸どきょう回復かいふくかれようやく自分じぶん姓名せいめい名乗るなのるとも手短てみじかかく来意らいい告げるつげる機会きかいとく
する年嵩としかさおとこ思い出しおもいだしようそうそう先刻せんこくくら須永すながから電話でんわはなしありまししかし今夜こんやなる思いおもいませでし云っいっ
そうきみそう早くはやくたっていけないいう様子ようすそのうら見えみえ敬太郎けいたろうせいいちさかずき言訳いいわけする必要ひつよう感じかんじ
老人ろうじんそれ聞くきくなし聞かきかなしいっかぜ黙っだまっ立ったっそんならまたいらっしゃい四五しごうちちょっと旅行りょこうますそのまえかかれるひまさえあれかかっ宜うようざんす云っいっ
敬太郎けいたろう篤くあつくれい述べのべまたもん暗いくらいよるなかれい述べのべほうちと馬鹿ばか丁寧ていねい過ぎすぎ思っおもっ
これずっとあとなっ須永すながくちから敬太郎けいたろう知れしれはなしあるここ主人しゅじんこの玄関げんかん近いちかい応接おうせつたった一人ひとり碁盤ごばん向っむかっ白石しらいし黒石くろいたがい並べならべながら考え込んかんがえこんそうある
それきゃくいちいしやっあと引続きひきつづき是非ぜひともある問題もんだい解決かいけつなけれすまなかっからある肝心かんじんところ敬太郎けいたろうさも田舎者いなかものらしく玄関げんかん騒がさわがせるものからまずこの邪魔じゃま追っ払っおっぱらっあというつもりなっじれった余りあまり自分じぶん取次とりつぎいう
須永すながこの顛末てんまつ聞かさきかさ敬太郎けいたろうますます自分じぶん挨拶あいさつ丁寧ていねい過ぎすぎよう
18/58