彼岸過迄

31/58

31
あめ降るふる面会めんかい謝絶しゃぜつ松本まつもと理由りゆうついに当人とうにんくちから聞くきく機会きかいとく久しくひさしく過ぎすぎ
敬太郎けいたろうそのうち取り紛れとりまぎれ忘れわすれしまっ
ふとそれみみかれ田口たぐち世話せわある地位ちいとく縁故えんこ遠慮えんりょなく同家どうけ出入でいりできるなっからことある
その時分じぶんかれあたま停留所ていりゅうしょ経験けいけんすでに新らしいあたらしい匂いにおい失いかけうしないかけ
かれ時々ときどき須永すながからそのはなし持ち出さもちださ苦笑くしょうする過ぎすぎなかっ
須永すながよくかれ向っむかっなぜそのまえぼくところ打ち明けうちあけなかっ詰問きつもん
内幸町うちさいわいちょう叔父おじひと担ぐかつぐくらいことははから聞いきい知っしっいるはずなめることあっ
しまいきみあんまり色気いろけあり過ぎるすぎるから調ちょうたわむれ出しだし
敬太郎けいたろうそのたび馬鹿ばか云えいえ通しとおしこころうちいつも須永すなが門前もんぜん後姿うしろすがたおんな思い出しおもいだし
そのおんなとり直さなおさ停留所ていりゅうしょおんなあっこと思い出しおもいだし
そうどこ遠くとおくほう気恥かしいきはずかしい心持こころもち
そのおんな千代子ちよこそのいもうと百代子ひゃくだいしあることいま敬太郎けいたろう珍らしいめずらしい報知ほうちなかっ
かれ松本まつもと会っかいっすべて内幕うちまく消息しょうそく聞かさきかさあと田口たぐちかお出すだす多少たしょうきまり悪いわるいおもうするだけあっかかわらかお出さださなけれ締め括りしめくくりつかないいう行きがかりいきがかりから笑わわらわれる覚悟かくごまえまた田口たぐちもん潜っもぐっ田口たぐちはたして大きなおおきなこえ出しだし笑っわらっ
けれどそのわらいなか己れおのれ機略きりゃく誇るほこる高慢こうまんひびきより迷っまよっひと本来ほんらいみち返しかえしやっ喜びよろこび勝利しょうり聞こえきこえいる敬太郎けいたろう解釈かいしゃく
田口たぐちその訓戒くんかいため教育きょういく方法ほうほういっかぜおん着せきせ言葉ことばいっさい使わつかわなかっ
ただ悪意あくいでしわけないから怒っどっいけない断わっことわっすぐその相当そうとう位置いち拵らえこしらえくれる約束やくそく
それから鳴らしならし停留所ていりゅうしょ松本まつもと待ち合わせまちあわせほう姉娘あねむすめ呼んよんこれわたくしむすめわざわざ紹介しょうかい
そうこのほうさん友達ともだち云っいっ敬太郎けいたろうむすめ教えおしえ
むすめなんこういうひと引き合ひきあいれるちょっと解しかいしかねかぜながら極めてきわめてよそよそしく叮嚀ていねい挨拶あいさつ
敬太郎けいたろう千代子ちよこいう覚えおぼえそのことあっ
これ田口たぐち家庭かてい接触せっしょく始めはじめ機会きかいなっ敬太郎けいたろうその後そのあと用事ようじなり訪問ほうもんなりえん藉りかり同じおなじひともん潜るもぐること多くおおくなっ
時々ときどき玄関げんかんわき書生しょせい部屋へや這入っはいっかつて電話でんわくち利き合っききあっことある書生しょせい世間せけんはなしさえ
おく無論むろん通るとおる必要ひつよう生じしょうじ
細君さいくん呼ばよば内向ないこうよう足すたす場合ばあいあっ
中学校ちゅうがっこう行くいく長男ちょうなんから英語えいご質問しつもん受けうけ窮するきゅうすることまれなかっ
出入でいり度数どすうこう重なるかさなるつれ敬太郎けいたろう二人ふたりむすめ接近せっきんする機会きかい自然しぜん多くおおくなっ一種いっしゅ延びのびかれ調子ちょうし比較的ひかくてき引き締っひきしまっ田口たぐち家風かふう差向いさしむかい坐るすわる時間じかん欠乏けつぼう容易ようい打ち解けうちとけがたい境遇きょうぐうかれ置き去りおきざり
かれ取りとりかえ言葉ことば無論むろん形式けいしきだけ重んずるおもんずる堅苦しいかたくるしいものなかっ大抵たいていぶんかからない当用とうよう過ぎすぎない親しみしたしみそれほど出るでるひまなかっ
かれ公然こうぜんひざ突き合わせつきあわせれいなく長いながい時間じかん遠慮えんりょこうない談話だんわ更かしふかし正月しょうがつ半ばなかば歌留多かるたかいおりあっ
その敬太郎けいたろう千代子ちよこからあなた随分ずいぶん鈍いにぶい云わいわ
百代子ひゃくだいしからあたしあなた組むくむいや負けるまけるきまってるから怒らおこら
それからまたいちカ月かげつほど経っきょうっうめ音信おんしん新聞しんぶん出るでるころ敬太郎けいたろうある日曜にちよう午後ごご久しぶりひさしぶり須永すながかい暮しくらし偶然ぐうぜん遊びあそび千代子ちよこ出逢っであっ
さんひとそれからそれ纏まらまとまらないはなし続けつづけ行くいくうちふと松本まつもと評判ひょうばん千代子ちよこくち上っのぼっ
あの叔父おじさん随分ずいぶん変っかわってるあめ降るふる一しきりひとしきりよく御客ごきゃく断わっことわっことあっいまそうかしら
31/58